ファイナンス 2021年8月号 No.669
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本稿では一時払終身保険を事例に取り上げましたが、生命保険には様々な形でオプションが含まれており、解約オプションなど商品に内在するオプションによりデュレーションが金利に依存するという意味で、コンベクシティ・リスクを有しています(デュレーションを算出する際オプション性を考慮した場合、実効デュレーションということもあります)。コンベクシティについては服部(2020g)で取り上げましたが、そこでは不動産担保証券(Mortgage-Backed Securities, MBS)の事例を取り上げ、早期償還がコンベクシティに与える影響を説明するとともに、そのコンベクシティ・ヘッジが金利に影響を与える点について議論しました。2021年でも米国金利の上昇要因としてコンベクシティ・ヘッジが大きな話題になりました*31。もっとも、生命保険の場合、そもそも期間が長いことに加え、キャッシュフローが様々な時点で発生するために、同じデュレーションでも(解約等のオプション・保証性がないとしても)、キャッシュフローが(相対的に)満期に偏っている国債などと比べるとコンベクシティが大きい、という問題があり、このこともコンベクシティ・リスクといえます。コンベクシティとはデュレーションが金利に依存する構造ですが、オプション性だけでなく、キャッシュフローの特性など、様々な要因でコンベクシティ・リスクが発生することに注意が必要です。*31) 日本経済新聞(2021/2/26)「米金利急上昇の裏に「コンベクシティ・ヘッジ」市場点描 マーケットの話題」などを参照。*32) 図2からスワップションの方がキャップやフロアより流動性が高いことが指摘できます。また、例えば、DTCCのデータレポジトリをBloomberg経由で見ると、スワップションのほうがフロアやキャップよりも取引件数や想定元本が大きい点も指摘できます。6.キャップとフロア6.1  スワップションとの比較でみたキャップとフロア本稿では債券オプションの中でも、スワップションにフォーカスしていますが、金融のテキストをみると、代表的な債券オプションとしてキャップとフロアも紹介されます。筆者の実感では実際の市場参加者が債券オプションを用いた分析をする場合、ほとんどの場合、国債先物オプションかスワップションになります。OTCデリバティブの分析という意味では、スワップションを用いることがほとんどでしょう。そのため、本稿ではスワップションに焦点を当てて説明をしました。スワップションが使われる最大の理由は、スワップションのほうがキャップやフロアに比べて(相対的に)流動性が高いことが挙げられます*32。これに付随して、IVの時系列データなど、スワップションのほうがデータの取得が容易である点も挙げられます。スワップションは、あくまで金利スワップの受け・払いをするオプションであるため、キャップとフロアと商品性の違いはあります(キャップとフロアの商品性は後述します)。また、キャップとフロアの場合、円LIBORやTIBOR(Tokyo InterBank Oered Rate)など短期金利のオプションが取引される一方、スワップションの場合、短期から長期の年限のオプションのデータがとれます。もっとも、本質的には両者ともOTCの債券オプションであるため、IVなどに集約した分析などを考える場合、投資家などは違うものの、本質的な違いは少ないとみることもできます。ファイナンスのテキストではキャップとフロアについても触れられるため、本稿ではできる限り具体例に即して補足的な説明を行います。6.2 キャップとフロアの基本的な仕組みキャップとは、ある金利が、事前に定めた金利を上回った場合、その差額をキャップの売り手が買い手に支払うオプションです。一方、フロアとは事前に定めた金利を下回った場合に、その差額を売り手が買い手に支払うオプションです。キャップは金利変化に上限BOX1 保険商品が有するコンベクシティ・リスク58 ファイナンス 2021 Aug.連載日本経済を 考える

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