ファイナンス 2021年8月号 No.669
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本来的には流動性は高いものの、円金利オプションの代表格である日本国債先物オプションの流動性がそもそも低いと指摘されていることも事実です。金利オプションの売買が活発ではない背景には、わが国では他国に比べて金利が長い間低金利で推移し、その変動も小さかったことから、その金利変動に係る保険商品であるオプションに、そもそもあまりニーズがなかったこともあるでしょう。上記に鑑みると、スワップションのデータには一定の弱点はあるものの、分析の広がりを考えると、スワップションのIVが有益であると考えられます。実際、実務家はスワップションのデータを用いた分析を非常に頻繁に行っていますし、後述するとおり日本銀行など公的機関の分析でも幅広く用いられています。4.スワップションの使用例4.1 スワップションのIVの推移図3は、円金利の1か月後に行使を迎えるATMのスワップションからのプレミアムから算出したIVの推移を示しています。前述のとおり、IVは金利と同様、通常、年率で表示されている点に注意してください。ここでは2年、5年、10年、20年の金利スワップを原資産とするスワップションのIVの推移を示し*16) 例えば、2年のIVの場合、(6か月円LIBORを変動金利とする)2年金利スワップを原資産とし、行使価格をATMFとしたうえで、市場で取引されているストラドルのプレミアムをノーマル・モデルでIVに変換したものをみています。*17) ストラドル・ロング(ショート)とは満期と行使価格が同じであるペイヤーズ・スワップションとレシーバーズ・スワップションを購入(売却)することを意味します。例えば、BloombergでIVを取得した場合、ストラドルの値が得られるため、ペイヤーズとレシーバーズ両方の情報を含んだ値が得られます。ており*16、このように短期ゾーンの金利リスク量と超長期ゾーンの金利リスク量をみることができます。この図をみると、円金利の水準と同様、低下トレンドがあり、投資家が認識している金利リスク量が下がっていることがわかります。また、量的質的金融緩和など日銀が新しい政策を行った時や新型コロナウイルスが問題になり始めた時期などにIVは上昇しており、投資家がリスクを感じているとみることができます。*17図3 スワップション(円金利)から算出したIVの推移010090807060504030201011121314151617181920(bps)2年5年10年20年(注)Bloombergの値はATMのストラドル*17のプレミアムからIVを計算した値を示しています。ここではノーマル・ボルを示しています。(出所)Bloomberg4.2 市場分析の事例前述の通り、実務家が市場分析を行う場合、スワップションのIVは非常に活発に活用されています。例えば、長野・大岡・馬場(2006)は「日銀レビュー」で円金利市場の動向を分析した内容ですが、そこではスワップションのIVを用いた分析がなされていま図2 店頭デリバティブ取引情報:商品別残高(金利関係取引、2020年3月末)〔上段:想定元本(兆円)下段:契約件数(件)固定―変動変動―変動OISスワップションその他総計銀行等181.77.40.838.029.3257.2(86,389)(1,424)(446)(7,822)(10,886)(106,967)大手行等161.27.30.536.722.1227.8(61,272)(1,366)(219)(7,470)(6,557)(76,884)地域銀行10.30.1―0.11.712.1(21,809)(39)―(134)(2,156)(24,138)外国銀行支店その他銀行10.20.00.31.25.517.3(3,308)(19)(227)(218)(2,173)(5,945)第一種金融商品取引業者103.59.62.398.139.9253.3(27,280)(2,165)(806)(15,374)(10,102)(55,727)保険会社2.0―0.34.10.06.4(332)―(4)(287)(20)(643)清算機関2,801.2591.9123.4―162.13,678.5(339,398)(59,778)(10,021)―(15,885)(425,082)上記計3,088.3608.9126.7140.1231.44,195.4(453,399)(63,367)(11,277)(23,483)(36,893)(588,419)(出所)金融庁資料より作成〕54 ファイナンス 2021 Aug.連載日本経済を 考える

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