ファイナンス 2021年8月号 No.669
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2.2 その他のポイントクオートの方法及び取引のイメージ前述のとおり、スワップションもオプションですから、「国債先物オプション入門」で説明したとおり、通常のオプションと同じ性質を持ちます。ここでは同レポートの知識を前提に、スワップション特有の性質について触れます。まず、国債先物はクオート(プライスの提示)や権利行使価格など、基本的に価格をベースに議論がなされます(例えばある権利行使価格のコール・オプションを購入する場合、〇銭という形でクオートされています)。一方、スワップションの場合、金利をベースに議論がなされます(クオートについては後述します)。例えば、1か月後に金利行使価格1%でレシーブする(債券を購入する)オプションがレシーバーズ・スワップションです。また、1か月後に、行使価格1%でペイする(売却する)オプションがペイヤーズ・オプションです。Bloombergなどでスワップションのデータをとると、特定のモデル(例えば、ノーマル・モデル)に基づいたIVが得られる傾向があります(ノーマル・モデルについては次回の論文で説明します)。例えば、Bloombergから、10年のスワップションのIVのデータを取得し、20bpsという値が得られたら、それは特定のモデルに基づき、スワップションのプレミアムをボラティリティに変換した値を意味します。「国債先物オプション入門」で説明したとおり、IVは基本的に年率で表示される点にも注意が必要です。例えば、10年のスワップション(満期1か月)のIVが20bpsであるとしましょう。この場合、金利の変動について、(正規分布を想定し)68%のレンジ*5で評価した場合、10年スワップレートが年率で±20bps変化すると投資家が予測していると解釈できます(日次ベースのボラティリティを考えると、68%のレンジで±1.26bps(=20bps/250)変化すると投資家が予測していると解釈できます)*6。Bloombergなどのベンダーを経由してスワップ*5) ここでのレンジと正規分布の関係は服部(2020b)で詳細に議論したため、説明を割愛します。詳細は同論文を参照してください。*6) もし金利変化の分布に正規分布を仮定すれば、営業日をTとすると、1日で算出したボラティリティにTをかけ合わせることで、異なる期間のボラティリティを簡易的に算出できます(逆に、1年の営業日数を250とした場合、年率のリスク量を250で割ることで1営業日のリスク量を算出できます)。ハル(2016)が指摘しているとおり、この性質は資産価格の変化が正規分布かつ独立同一分布に従っている場合は成立しますが、そうでない場合は近似式である点に注意が必要です。本稿では250営業日を1年としましたが、異なる営業日数を用いることがある点に注意してください。*7) 行使価格や満期を同じにしたペイヤーズとレシーバーズを同時に注文(ストラドルの注文)するなど、様々なバリエーションがありえます。*8) バミューダ・オプションとは、満期日までの間で、行使可能な日が特定の制限されているオプションです。ハル(2016)では「標準的でないアメリカン・オプション」と整理されています。*9) 服部(2020b)を参照してください。ションのデータを見る場合、ボラティリティで表示されることがほとんどですが、実際の取引においてもボラティリティでクオートされることがあります。もっとも、円金利市場の場合、プレミアムでクオートされる傾向にあります。ボラティリティの値はモデル依存であり、業界で活用されているモデルは複数あるがゆえ、取引の際にボラティリティを用いて取引を行うと混乱が生じる可能性があることが一因です。この場合、例えば、読者が10年のスワップション(満期1か月)のプライスを証券会社に聞いた場合、額面に対して何%かという意味で「〇bp」という形でプライスが返されます(35bpという価格を提示する場合、額面100億に対して3500万円を支払えば、そのオプションが購入できることになります)。具体的な取引において、例えば、想定元本100億円の10年スワップション(満期1か月)の場合、「想定元本100億円の1 month into 10 year(原資産は10年金利スワップ、満期は1か月後)の行使価格(ストライク)1%のペイヤーズ・スワップションのビッド(オファー)をほしい*7」という形で投資家は業者にプライスを聞きます。オプションには、権利行使のタイミングが満期である「ヨーロピアン・タイプ」、いつでも行使できる「アメリカン・タイプ」、その中間にあたる「バミューダ・タイプ」*8などがありますが、スワップションは国債先物オプションとは異なり、OTC市場で取引されるデリバティブですから、投資家のニーズに合わせてオプションのタイプを選択することができます。Bloombergなどで得られるデータは通常、ヨーロピアン・タイプのオプションに基づくことが一般的です(一方、国債先物オプションは実務的にはヨーロピアン・オプションとみなされているものの、制度的にはアメリカン・タイプでした*9)。アット・ザ・マネー・フォワード(ATMF)スワップションのIVの時系列データを取得する場 ファイナンス 2021 Aug.51シリーズ 日本経済を考える 115連載日本経済を 考える

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