ファイナンス 2021年8月号 No.669
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html債券(金利)オプション入門 ―スワップションについて―東京大学 公共政策大学院/財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1151.はじめに*1本稿では、実務的に幅広く活用されているスワップションを中心に債券(金利)オプションについて解説をします。債券オプションの代表格であるスワップションは、その名の通り、金利スワップのオプションです。「金利スワップ入門」で強調したとおり、金利スワップとは債券と類似した取引ですから、スワップションとは債券オプションと解釈することができます*2。スワップションは金融機関が有する金利リスクのヘッジなど金融市場では広く活用されています。「国債先物オプション入門」で説明しましたが、オプションの価格を利用することで投資家が感じている金利リスク量を定量的に測ることが可能です。オプション価格に立脚したボラティリティはインプライド・ボラティリティ(Implied Volatility, IV)と呼ばれますが、IVは恐怖指数(VIX)など金融市場で幅広く活用されています。債券のオプションについては、日本取引所グループ(JPX)に上場している日本国債先物オプションは7年金利に関するオプションであるのに対して、スワップションのIVを用いれば、様々な年限の金利リスク量を把握することができます。例えば、金融政策との観点で投資家が感じている金利リスク量を見たい場合、短期金利に紐づいたIVをみることが一案ですが、このようなケースでスワップションは役に立つわけです。*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) ファイナンスのテキストでも、スワップションは債券オプションの中で取り扱われます。例えば、タックマン(2012)ではスワップションは債券オプションの章で取り扱われます。*3) 本節については後藤勇人氏からコメントをもらいました。記して感謝申し上げます。筆者の印象では、スワップションについて解説した文献はあるものの、その多くがモデルに特化した説明を行っています。本稿の特徴は、政策担当者や金融機関の実務家を想定読者とし、スワップションの実務的な側面やIVを用いた分析手法などに焦点を当てて説明を行う点です(モデルの解説は次回の論文で行う予定です)。なお、本稿では、筆者が執筆した「金利スワップ入門」および「国債先物オプション入門」を前提とするため、金利スワップやオプションになじみのない読者はまずは同論文を参照いただければ幸いです。2.スワップションとは*32.1 スワップションの基本的な設計「金利スワップ入門」(服部(2020d))で強調したとおり、スワップは債券と本質的に似た取引といえます。スワップションとはスワップのオプションに相当しますから、その意味ではスワップションとはいわば債券のオプションと類似した取引と解釈できます。筆者は「国債先物オプション入門」で国債先物のオプションを解説しましたが、債券市場でIVを見たい場合、先物オプションではなく、スワップションから算出されたIVを使うことも少なくありません。スワップションの初学者が最初に躓く点は、コー ファイナンス 2021 Aug.49連載日本経済を 考える

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