ファイナンス 2021年8月号 No.669
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コラム 経済トレンド86大臣官房総合政策課 調査員 大井 克彰/山口 晶子リカレント教育について本稿では、日本の社会人の学び直しついて、企業・就業者・教育機関の三者の視点から現状や課題を洗い出し、リカレント教育の重要性や、その推進に向けてどのように障壁を取り除いていくべきかについて考察を行う。企業の視点:企業内教育訓練の限界・企業においては、終身雇用を前提とした場合、従業員が自社の職務遂行に必要な知識や技術を獲得し労働生産性を向上させることを目的として、就業者に対する企業内の教育訓練、特にOJTが、雇用形態を問わず「学び」の方法として重視される傾向にある。(図表1)。・雇用形態別にOJTの実施率をみると、非正規雇用への実施率は低水準にある(図表2)。一方で、非正規雇用が雇用者に占める割合は増加傾向にある(図表3)ことから、学びの機会が提供されない就業者が増加している。・また、デジタル技術の進展や国際競争の激化など、企業は急激な環境変化に晒される中で、従業員が獲得すべき知識・技術は既存の職務遂行に捉われない高度で多角的な広がりを見せており、指導する人材の数・質ともに不足していることが企業にとっての課題となっている(図表4)。・こうした背景から企業内のみで完結する教育訓練は限界を迎えつつあり、企業が労働生産性を維持・向上するためには、就業者の企業外での学びを支援、促進する取り組みを行うことが重要となっている。(図表1)企業が重視する教育訓練28.720.548.153.11520.35.0 4.2 3.21.8正社員以 外正社員OJTを重視するOFF-JTを重視するに近いOJTを重視するに近いOFF-JTを重視する不明100806040200(%)(図表2)計画的なOJTの実施状況22.356.5正社員以 外正社員6040200(%)(図表3)役員を除く雇用者数、非正規雇用の割合06,000405,000384,000363,000342,000321,00030282002040608101214161820(年)(万人)(%)※2011年の数値は補完的に推計した値(2015年国勢調査基準)※非正規雇用の割合は、役員を除く雇用者のうち非正規の職員・従業員の割合正規非正規非正規雇用の割合(図表4)人材育成に関する問題点 (複数回答)9.72.97.68.716.029.042.649.454.9その他技術革新や業務変更が頻繁なため、人材育成が無駄になる人材育成の方法がわからない適切な教育訓練機関がない育成を行うための金銭的余裕がない鍛えがいのある人材が集まらない人材育成を行う時間がない人材を育成しても辞めてしまう指導する人材が不足している6040200(%)就業者の視点:人生100年時代の学び直し・「人生100年時代」が到来する下で、一生涯の途中で社会環境の大きな変化に直面する可能性は高まっている。その中で、長期にわたり社会で活躍し続けるためには、従来の初期に教育を受け、労働期、引退期を過ごすという直線的な人生の在り方(フロントエンドモデル)ではなく、必要に応じて循環・反復的に学び直すこと(リカレント・モデル)が重要となっている(図表5)。・企業において、これまで重視してきた能力と人生100年時代に求められる能力を比較すると、「柔軟な発想で新しい考えを生み出すことのできる能力」や「特定の分野における専門的・技術的な能力」がこれまでよりも重視されており、今後、実務上で新たに必要となる知識・技術の習得や、キャリア形成に関わる教養を身につけることが、就業者には求められるであろう(図表6)。・一方で、学び直しを行う日本人は少なく、さらにキャリア形成に直接関わりのない趣味等の教養を身につけることも、学びとして広く捉えられており(ライフロング・モデル)、大学等でリカレントに学び直す人はより少数である(図表7)。また学ばない理由として「今後、転職や独立を予定していないから」や「あてはまるものがない」が挙げられており、時間・費用等の障壁に加え、自身で学ぶ必要性への認識が不足していると考えられる(図表8)。46 ファイナンス 2021 Aug.連載経済 トレンド

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