ファイナンス 2021年8月号 No.669
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コラム 海外経済の潮流135大臣官房総合政策課 調査統計官 広田 太志各国中央銀行による気候変動問題への対応近年、世界各地で大規模な気象災害が発生していることなどを受け、気候変動への関心が高まっている。世界経済フォーラムが公表している「グローバルリスクレポート」によると、近年は気候変動に関連するリスクが上位に入っている(図表)。とくに、2020年は同レポート公表後初めて、上位5つのリスクがすべて気候変動に関連するものとなった。(図表)今後10年で発生可能性の高いグローバルリスク2010年2020年2021年1資産価格崩壊異常気象異常気象2中国経済の減速気候対応の失敗気候対応の失敗3慢性疾患自然災害人的環境損害4財政危機生物多様性の喪失感染症5グローバルガバナンスの欠如人為的な環境災害生物多様性の喪失(出所)World Economic Forum, “The Global Risks Report 2021”.(注)色掛け部分は、環境に関連するリスクを指す。このような状況の中、気候変動がもたらすリスクが、各国の中央銀行の間で認識されつつある。中央銀行や金融監督当局の集まりであるNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が2020年6月に公表したレポート*1は、(1)気候関連リスクは主要なマクロ経済変数に影響を与える、(2)気候関連リスクは金融政策の波及経路に影響を与える可能性がある、などと指摘している。また、NGFSが同年11月に公表したサーベイ結果*2によると、調査対象(51の国を代表する26の中央銀行)となったすべての中央銀行の回答者が「気候変動は中央銀行にとっての課題である」と回答したほか、多数の回答者が「気候変動は金融政策の波及経路に影響を及ぼす」と回答した。一方で、具体的な気候変動対策の実施については*1) NGFS, “Climate change and Monetary Policy Initial takeaways”.*2) NGFS, “Survey on monetary policy operations and climate change:key lessons for further analyses”.*3) ECB, “The ECB’s monetary policy strategy statement”.*4) ECB, “ECB presents action plan to include climate change considerations in its monetary policy strategy”.まだ初期段階にある中央銀行が多数を占めていることも判明した。このように気候関連リスクが中央銀行の間で認識される中、金融政策に気候変動対策を取り入れようとする中央銀行もみられる。欧州中央銀行(ECB)は、2021年7月8日に金融政策の戦略検証(Strategy Review)の結果を公表した。その中でECBは「気候変動は、経済及び金融システムの構造や循環的ダイナミクスに影響を与えることで物価安定に大きなインプリケーションをもたらす」と述べ「金融政策の評価に気候要因を包括的に取り入れることに加えて、情報開示、リスク評価、企業部門の資産購入、担保枠組みに関連した金融政策運営の枠組みを変更する」とした*3。ECBが公表したアクションプラン*4において具体的に挙げられたのは、(1)新たな経済モデルの開発を加速し、気候変動やそれに関連する政策が経済や金融システム等に与える影響を監視、(2)気候変動リスク分析のための新たな指標の開発、(3)民間資産を担保として受け入れる、又は買入れの対象とする際に環境の持続可能性に関する情報開示要件を設定、(4)気候変動ストレステストを実施し、気候変動に対するユーロシステムのリスクエクスポージャーを評価、(5)資金供給オペの際に担保として利用される資産の評価等を行うにあたり気候変動リスクを考慮、(6)社債買入れの基準に気候変動要因を取入れ、等である。このうち(3)については2022年に詳細を公表予定、(4)については2022年にストレステストを実施予定、(6)については2023年第1四半期までに、企業部門の資産買入れについて気候関連情報を開示する予定とされている。日本においても、2021年6月18日、日本銀行が、44 ファイナンス 2021 Aug.連載海外経済の 潮流

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