ファイナンス 2021年8月号 No.669
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だろうか。さておき最高路線価の所在地の建物名には何らかの法則性がありそうだ。街の歴史と個性が滲み出ている。とはいえ資料が少なく調べがつかなかったものも多い。一覧表に登場する建物(店)の由来とその後の経緯、思い出のエピソード等、編集部気付あるいは直接お寄せいただければ望外である。最高路線価が県庁所在地より高い都市表2から気づくように、報道発表が始まってしばらくは、今のような都道府県庁所在都市ではなく都道府県内の最高路線価を公表していた。例えば昭和34年の一覧表を見ると19位の大分の最高路線価は別府である。他に31位の下関(山口県)、32位の四日市(三重県)、35位の高崎(群馬県)が所在県の最高路線価であり、それぞれ県庁所在都市の大分市、津市、前橋市の路線価よりも高かった。こうしたケースはその後もあって、昭和36年の神奈川県の最高路線価は横浜ではなくが川崎だった。昭和37年には大分県の最高路線価が別府から大分市に移った。今に続く都道府県庁所在都市の最高路線価を公表するようになったのは昭和38年からである。表3の通り、最高路線価地点が県庁所在都市ではないケースは令和3年にも7つある。群馬県、三重県、山口県については昭和34年と同じ都市だ。表3 県庁所在都市以外が県内の最高路線価のケース所在県順位の変化所在地千葉県15→13船橋市本町1丁目船橋駅前通り群馬県45→25高崎市八島町市道高崎駅・連雀町線三重県39→30四日市市安島1丁目ふれあいモール通り滋賀県32→31草津市大路1丁目JR草津駅東口広場福島県40→32郡山市駅前1丁目郡山駅前通茨城県36→35つくば市吾妻1丁目つくば駅前広場線山口県43→41下関市竹崎町四丁目下関駅東口駅前広場(出所)国税庁路線価から筆者作成上から説明すると、千葉県の最高路線価が船橋市に移ったのは昭和53年(1978)である。当時の所在地は大丸百貨店前船橋駅前通りだった。現存する大丸百貨店と同じ名前だが別の店である。昭和63年(1988)に千葉市に戻ったが、平成24年(2012)に船橋市が再び県内最高路線価となり現在に至る。次に、滋賀県の最高路線価所在地が大津市から草津市に移ったのは平成5年(1993)である。人口は大津に次ぐ県下2位だが、京阪地区のベッドタウンとして発展した。平成6年(1994)に立命館大学びわこ・くさつキャンパスができてからは研究者や学生も住むようになった。大津市の琵琶湖畔にあった西武百貨店が閉店して以来、滋賀県唯一の百貨店は草津駅前にある。福島県の最高路線価が何年から郡山市に移ったか定かではないが、手元の資料では遅くとも昭和45年には郡山市が最高路線価地点になっている。会津に通じる交通の要衝で県都の福島市よりも人口が多い。次に、茨城県の最高路線価地点は県庁所在地でも税務署所在地でもないつくば市である。長らく水戸市だったが、つくばエクスプレスの開業年でもある平成17年(2005)、まずは土浦税務署管内の最高路線価が土浦市からつくば市に移った。その10年後の平成27年(2015)、つくば市の最高路線価が水戸市を追い越した。昭和60年(1985)のつくば万博以来、首都圏の近郊都市として発展してきた筑波研究学園都市である。なお山口県は、昭和34年も現在も最高路線価地点が下関だが、この間の約60年で何度か変遷している。まず昭和43年(1968)に徳山(銀座2丁目大丸パチンコ店前銀座通り)に移った。平成3年(1991)に岩国(麻里布町2丁目とみや薬局前通り)に移るが1年で徳山に戻る。その後、平成11年(1999)に約30年ぶりに下関に戻った。報道発表されるのは都道府県庁所在都市の最高路線価だが、最高路線価地点と県庁所在都市が異なるケースを調整し、都道府県別の最高路線価に引き直すと印象が少々変わってくる。令和3年のランキングでいうと、千葉は上から15位だったが、千葉市を船橋市に置き換えると岡山を追い越し熊本に次ぐ13位となる。群馬は前橋市が指標となるため45位だが、高崎市に置き換えれば新潟の1つ上の25位となる。同じように福島は40位だが、郡山市でみると宇都宮と並び32位となる。ちなみにその上の31位が草津(滋賀)で、2つ上の30位が四日市(三重)だ。プロフィール大和総研主任研究員 鈴木 文彦仙台市出身、1993年七十七銀行入行。東北財務局上席専門調査員(2004-06年)出向等を経て2008年から大和総研。専門は地域経済・金融 ファイナンス 2021 Aug.43路線価でひもとく街の歴史連載路線価でひもとく街の歴史

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