ファイナンス 2021年8月号 No.669
41/84

う、すぐれて刑事政策的な観点から創設された犯罪が、マネロン罪である。マネー・ロンダリングは、直訳すれば「カネを洗う」という意味であり、しばしば「資金洗浄」という用語に置き換えらえる。違法なカネは官憲に露見しないよう隠しておきたいが、当然、いつまでも隠していて使えなければ、持ち腐れである。「見えないカネ」とは言ったが、それも何らかの形で、表の世界で使える形にしなければ、折角稼いだ意味が無い。そこで、このようなカネを、あたかも合法な手段によって獲得したかのように見せかける偽装工作が、マネロンに他ならない。このような犯罪収益やマネロンに係る世界的な規模についても、多くの推計が試みられて来た。国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、2011年に既往の学術的推計を取りまとめ、2009年ベースに引き直して、世界の犯罪組織の収益に関し、およそ1.5~2.6兆ドル(対GDP比にして2.6~4.4%)のレンジという目安を提示している。他方で、IMF等においては少なくとも1990年代よりマネロンに係る額の推計が行われているが、それも踏まえた額として対GDP比2~5%を*3) Conceptual Framework for the Statistical Measurement of Illicit Financial Flows, UNODC Research Report, October 2020 Estimating Illicit Financial Flows Resulting from Drug Trafficking and Other Transnational Organized Crimes, UNODC Research Report, October 2011 Michel Camdessus (former Managing Director of IMF), Money Laundering:the Importance of International Countermeasures, Speech at the Plenary Meeting of FATF, February 10, 1998 Vito Tanzi, Money Laundering and the International Financial System, IMF Working Paper, May 1996 Peter J. Quirk, Macroeconomic Implications of Money Laundering, IMF Working Paper, June 1996「コンセンサス・レンジ」であるとしており、これは2009年ベースにすれば1.2~2.9兆ドルということになる*3。これらの数字は必ずしも内数・外数といった関係に立つものではないが、差し当たっての大体の規模感として、年間2兆ドル前後のカネが組織犯罪によって産み出され、またそれと同程度の額がマネロンの対象となっていたものと理解しておいて、差し支えないだろう。当然、それから10年以上経った現在においては、この額は更に増えていることが想定される。言うまでもなく、とんでもない規模のカネである。4.マネロンの手法では具体的にどのようにロンダリングをするかと言えば、その態様は、実に様々な形を取り得る。このような場合、実際の事例を多く知ることも重要であるが、土台キリが無いし、何より所詮は他人事である。かと言って、いきなり概念的・抽象的解説をされても、実感が持てない。それよりもむしろ、まずは自らが犯罪者の立場に立って、「自分ならどうするか」と、図表2 マネロンの流れ(出典)UNODC https://www.unodc.org/unodc/en/money-laundering/overview.html ファイナンス 2021 Aug.37還流する地下資金 ―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―連載還流する 地下資金

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る