ファイナンス 2021年8月号 No.669
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基本的価値観を共有するのみならず、外交・安全保障を大きく依存する同盟国である。対して中国は、米国が主導する現状の国際秩序に満足せず、2021年7月には「国際秩序の擁護者」として「歴史の正しい側に立ち、人類進歩の側に立つ」と宣言している*53。2021年4月の日米首脳会談は、バイデン大統領にとって、対面で行われた最初の首脳会談であり、象徴的な意味合いを持つ。共同声明では、中国を念頭に、台湾海峡の平和と安定の重要性や半導体を含む機微なサプライチェーン構築での連携が確認された。目下の国際情勢を鳥瞰すると、今後、米中を軸とした国際秩序の再編が行われていくと考えられる。中国は2028年にはGDPで米国を上回り世界1位の経済大国になると見られている*54。ただし、1人当たりGDPでは先進国の水準には遠く及ばず、格差や不均衡は依然解消しそうにない。加えて、今後少子高齢化が急速に進む。中国は2021年にも65歳以上の人口が14%を上回り「高齢化社会」に突入し、さらに2050年までに人口の約3分の1(4億8700万人)が高齢者になると予測されている*55。他方、生産年齢人口は減少を続け、「3人っ子政策」を推進するも出生率*56の改善は難しい状況である。米国も出生率は低下傾向*57ではあるものの、移民の流入等によって人口は引き続き増加することが見込まれており、人口・経済力ともにアドバンテージを保ち続けると見られる*58。こうした米中のパワーバランスの趨勢にも留意しつつ、米国主導の既存の秩序か、中国主導の新たな秩序か、各国は旗幟を鮮明にしながら、あるいはバランスを取りながら、外交・安保・経済政策等を選択する。中国に対抗するための外交構想FOIP、そしてFOIPを実現するための枠組みQUADは、いずれも日本の安倍首相(当時)が提唱し、米豪印といったインド太平洋地域の価値観を共有する国々を巻き込んできただけに、日本には自由で開かれた国際秩序の実現のための更なる貢献やリーダーシップが求められる。そのためにも、安全保障に関する受け身の姿勢を脱し、当事*53) 中国共産党世界政党指導者サミットにおける習近平総書記の基調演説(2021年7月6日)より。*54) The Centre for Economics and Business Research(2021)“WORLD ECONOMIC LEAGUE TABLE 2021-A world economic league table with forecasts for 193 countries to 2035,” December 2020, 12th edition.*55) 新華社「中国の高齢者人口、2050年には総人口の約3分の1に」(2018年7月21日)*56) 2020年の中国の合計特殊出生率は1.3であり、日本の1.34を下回った。(出典:中華人民共和国国家統計局「第七次全国人口普査主要数拠」(2020年5月11日)、厚生労働省「人口動態統計」(2020年6月4日))*57) 2020年の米国の合計特殊出生率は1.64であり、6年連続で低下し、過去最低を記録した。(出典:Centers for Disease Control and Prevention(2021)“Birth:Provisional Data for 2020,” May 2021)*58) 2050年代には米国のGDPが中国を再逆転すると予測されている。(出典:日本経済研究センター「長期経済予測」)者としてのビジョンを描き、米中の狭間で自律的に行動できるか、日本の覚悟が問われる。筆者略歴庄中 健太(しょうなか けんた)財務省大臣官房秘書課 船橋利実財務大臣政務官秘書官2013年財務省入省。主計局、高松国税局、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局を経て、北京大学、イェール大学に留学。2020年7月より国際局国際調整室にて欧米等先進国の政治・経済情勢の分析、財政当局の二国間協議等を担当。2021年7月の人事異動に伴い大臣政務官秘書官を拝命。 ファイナンス 2021 Aug.31新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第3回) SPOT

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