ファイナンス 2021年8月号 No.669
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字解消のため、2018年7月から4度に及ぶ対中制裁関税措置を立て続けに実施し、ほぼ全ての中国製品に対する関税を引き上げた。また、この頃から中国の持つ人工知能(AI)、ビッグデータ、5Gといったハイテク技術やサイバー面での対応も進展した*49。さらに、「航行の自由」(FON:Freedom of Navigation)作戦の強化等、台湾にも接近した。バイデン政権となっても「関与」を放棄した対中強硬姿勢は変わらず、むしろ人権問題の追及や多国間主義による国際協調により、中国への対抗を一層強めている。(2)「中国の夢」2021年7月、中国共産党は結党100周年を迎えた。1949年に建国された中華人民共和国は、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」*50及び科学的発展観を全党・全人民の行動指針とし、中国共産党が領導するイデオロギー国家である。中国は鄧小平体制の下、1978年から「改革開放」を推し進め、計画経済から市場経済体制へ移行した。しかし、経済の自由化を達成し、世界第2位の経済大国となった後も、共産党による一党独裁の政治体制は一切自由化されることはなかった。中国は現在もマルクス・レーニン主義の下、経済成長を実現し、技術革新で世界をリードし、国際社会で影響力を発揮しており、多くの国民は安定した経済成長と生活水準向上をもたらしてきた現状の政治体制に満足している。中国共産党の統治理念であり歴史的使命は「中華民族の偉大なる復興」であり、「中国の夢」を実現することである*51。中国共産党による社会統制は、こうした国家のイデオロギー的な正統性と密接不可分であるため、リベラルデモクラシーの立場から、政治的自由化と経済成長を結びつけて説明し、中国に価値観転換を迫る試みは、到底受け入れられるものではない。さらに、2017年10月に開催された中国共産党第19回代表大会(第19回党大会)では、これらの理念を継承・発展させる形で「習近平による新時代の中国*49) 例えば、2018年8月には「2019年国防権限法」(NDAA:National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019)が成立し、ファーウェイ等の政府調達が禁止された。*50) 「江沢民共産党総書記が2000年2月の広東省視察の際、共産党創立から70余年を総括した重要な結論として発表した理論。共産党が人民から支持される理由は、党が労働者階級の先鋒隊として革命、建設、改革の各時期を通じ、(1)中国の先進的な社会生産力の発展の要求(2)中国の先進文化の前進の方向(3)中国の最も幅広い人民の根本的利益を――の3つを常に代表し、正しい政策方針を示して、国家と人民の根本利益を実現するために努力してきたからだ、とする考え方」(出典:人民網日本語版)*51) 2012年に習近平最高指導者が中国共産党第18回党大会において発表した。*52) さらに、2049年までに「世界一流の軍隊」を保有することについても目標に掲げている。の特色ある社会主義思想」が中国共産党規約に盛り込まれ、権威主義的体制は一層強化された。第19回党大会では、建国100年(2049年)を念頭に「総合国力と国際影響力においてリーダー国家となる」として、事実上、米国に比肩する強国を目指すことが表明された*52。一方で、習主席は中国の現状を依然として「世界最大の発展途上国」と規定し、発展途上国の立場から、他の途上国に寄り添い連携することで、米国を始めとする先進国と対峙していくという従来の立場を堅持した。なお、「核心的利益」とする台湾については、一国二制度の適用を主張した他、2019年には武力行使の可能性にも言及し、米国による台湾介入を牽制している。こうした独自の理念の下、中国は近年国家の統制を一層強めるとともに、対外的には「一帯一路」構想を通じて途上国支援を進めたり、新型コロナ危機に際しては「マスク外交」を展開する等、独自の国際貢献路線を歩み、途上国への影響力を強めていった。また、習主席の標榜する「社会主義現代化強国」の2049年までの実現に向けて、米国の覇権や既存のリベラル国際秩序に挑戦する動きが見られるようになっていった。5200機のドローンによる中国共産党100周年記念ショー(騰訊視頻)(3)日本の立ち位置このように米中が激しく対立する状況を踏まえ、日本は如何なる立ち振る舞いが求められるのか。日本にとって、米国は自由、民主主義、人権の尊重といった30 ファイナンス 2021 Aug.SPOT

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