ファイナンス 2021年8月号 No.669
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し、対抗した*34 *35 *36*37。豪州はこれら中国による関税措置を不当としてWTOに提訴したが、中国も対抗して豪州をWTO提訴する報復措置*38を取っており、豪中の応酬は経済戦争の様相を呈している。また、豪州は2021年より、安全保障上の観点から基幹インフラ事業における中国の影響力を排除すべく、新たな外国投資審査制度や、州や大学等が外国政府との間に締結した協定を政府が見直すことを可能とする「外国関係法」を導入した。実際、これに基づき、ビクトリア州政府と中国が締結した「一帯一路」構想に関する契約を撤回したり、北部準州政府が中国企業と結んだダーウィン港の99年間の賃借契約についても、利用制限を含め見直しを検討するとした。こ*34) ブレグジットについてもこの流れの延長線上にあり、2019年の欧州議会選挙では、英国はブレグジット党が2大政党を抑えて第1党となっていた。また、2016年の英国のEU離脱決定と時を同じくして、米国でも反移民を掲げるトランプが大統領選挙に勝利したことで、反グローバリズムは世界的な潮流となりつつあった。*35) ルペン候補は第1回投票においてマクロン候補と3%程度の得票差にまで迫った。*36) 2014年9月、スコットランドにおいて、英国からの独立の是非を問う住民投票が実施されたが、賛成44.7%、反対55.3%で否決され、英連邦への残留が決定した。なお、2016年に実施された英国のEU離脱を問う国民投票において、スコットランドは賛成38.0%に対して反対62.0%とEU残留派が多数であったこともあり、ブレグジット決定を機に独立の機運が再燃した。*37) さらに、中国は2020年10月には豪州産綿花の輸入停止措置、翌11月には豪州産ワインへの反ダンピングの制裁関税ついても立て続けに発動した。*38) 豪州が中国からの輸入品に対して課している鉄道車輪部品、ステンレス製水槽等の反ダンピング関税措置に対して撤回を要求するもの。れに対し、中国は豪州との経済対話の無期限停止を決定する等、豪中関係は過去最悪と言われるまでに冷え込んでいる。こうした豪中関係に鑑み、豪州にとっては対中依存度を低下させることが喫緊の課題であり、貿易投資やサプライチェーンを多様化するためにも、日本との関係を含むインド太平洋戦略がより重みを増してくるものと考えられる。(4)日本の対中姿勢日本にとっても、中国は最大の貿易相手国であり、地理的には隣国である。日中関係は、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件(2010年)や、日本による尖閣諸島英国によるブレグジットは、政治・経済の両面において欧州の統合を進め、拡大を続けてきたEUの理念に対し、三行半を突き付けた象徴的な出来事であった。しかし、反EUの機運は英国に限らず、欧州各国において顕現していた。2010年のギリシャ債務問題端を発する欧州債務危機では、危機に陥った債務国はEUから厳しい緊縮を求められた。また、2015年にはシリア内戦の影響で欧州難民危機が発生し、EUによって各国に難民の受け入れ数が割り当てられたが、自らの生活が脅かされる危機感を抱いた人々によって各地で移民排斥運動が起きた。このように、国家の主権を超越するEUや、それらを是認する既成のリベラル政治に対する大衆の不満を背景に、エリート層への批判や、反EU・反移民といった排他的ナショナリズムを主張するポピュリズムと呼ばれる動きが欧州各地で跋扈した*34。例えば、フランスでは2017年、極右政党である「国民戦線」のルペン党首が大統領選挙で決選投票まで駒を進め*35、2019年欧州議会選挙では「国民連合」(「国民戦線」から改称)がフランスの第1党となった。イタリアではEUの財政規律に反対する「五つ星運動」が2018年の総選挙で第1党となり、また、極右政党「同盟」は2019年の欧州議会選挙でイタリアの第1党となっている。なお、両党は2021年に発足したドラギ内閣において連立政権を組織している。さらに、EUのリベラリズムを否定する、オルバン首相率いるハンガリーやカチンスキ党首(与党「PiS」)率いるポーランドが、新型コロナからの復興のための欧州復興基金の合意に関し、「法の支配」に関する条件で最後までEUとの対決姿勢を崩さなかったことは記憶に新しい。とまれ、今後各国においてこうした動きが強まれば、EUの安定は盤石とは言えない。2021年9月にはドイツで連邦議会選挙が予定され、欧州のアンカーであったメルケル首相が引退する見込みである。また、フランスでは2022年に大統領選挙を控えるが、現在、極右のルペン候補が現職のマクロン大統領と支持率で拮抗している。英国では、2021年5月に行われたスコットランド議会選挙において独立派が過半数の議席を獲得し、スコットランドの独立機運が再び高まっている*36。中国の影響も含め様々な楔が点在する欧州において、分断と統合の動きがどのように進展するか、今後の趨勢が注目される。コラム3:欧州ポピュリズムの趨勢 ファイナンス 2021 Aug.27新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第3回) SPOT

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