ファイナンス 2021年8月号 No.669
30/84

硬姿勢を示した。このように、近年、欧州の中国を見る目は厳しいものへと変化している。以下、欧州主要国の対中姿勢を概観する(英国については上述)。フランスは、分野に応じては中国と協調関係を築いてきた。例えば、優先課題とする気候変動問題に関しては、米国のパリ協定離脱に危機感を強めており、最大の温室効果ガス排出国である中国を国際的枠組に巻き込むべく、国際自然保護連合(IUCN)やCOP26の場を用いて協力関係を構築する姿勢を見せている。他方、途上国開発に関しては、パリクラブを主催する立場から、中国による債務の問題について野放図にせず、然るべき圧力をかけている。また、2020年以降、新型コロナや人権問題への態度等から中国への警戒を強め、ファーウェイを5G通信網から排除することを決める等、米国や英国等と足並みを揃えている。中国との経済的結びつきが強いドイツは、2005年から続くメルケル政権の間、通商関係を発展させ、また「一帯一路」構想がもたらす戦略的な利益に期待を寄せる等、中国と緊密な関係を保ってきた。しかし、2016年以降中国による基幹産業の買収*30が相次ぎ、国内において安全保障上の危機感が共有されると、2017年には外国企業による投資規制を強化し、当局の審査権限を拡充する等、非互恵的関係にあった中国に対抗する姿勢を示し始めた。また、2020年9月には「インド太平洋指針」を閣議決定し、中国のインド太平洋地域への関与について警戒するとともに、日豪といった自由で民主的な価値観を共有する国との関係強化を打ち出した。他方、対中強硬姿勢を強める米・英・仏といった国と比較すると、ファーウェイ排除には及び腰である等、ドイツの対中スタンスは穏健的に見える。イタリアは、コンテ政権時の2019年3月、G7参加国として初めて中国の「一帯一路」構想に参画する覚書に署名する等、中国と緊密な関係を築くことで、中国によるインフラ投資を呼び込み、国内の経済成長を促すことを企図していた。新型コロナの感染が欧州で*30) 特に、2016年に中国企業の美的集団(MIDEA)が世界トップのロボットメーカーであるドイツ企業のKUKAを買収したことはドイツ国民に衝撃を与え、中国への危機感を抱かせる契機となった。*31) 発足当初の中東欧諸国メンバーは、ブルガリア、クロアチア、チェコ、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニアのEU加盟11か国、及び、アルバニア、ボスニアヘルツェゴビナ、マケドニア、セルビア、モンテネグロのEU非加盟5か国の計16か国。*32) 2019年にギリシャが加わり「17+1」と呼ばれるようになったが、2021年6月にリトアニアが離脱した。*33) さらに、中国は豪州にとって最大のサービス輸出先であり、豪州は観光や留学産業についても中国マネーの恩恵を受けている。真っ先に拡大したイタリアは、マスク等の医療物資支援に消極的であったEUや欧州諸国の対応に不満を抱き、対照的に、即座に手厚い支援を提供した中国の対応を歓迎した。ただし、5G分野や香港問題についてはEU諸国と足並みを揃える等、中国と一定の距離を置いている。また、2021年2月にドラギ政権に移行すると、中国を「専制国家」であり「民主主義国家と同じ価値観を共有していない」として、「一帯一路」への参画を見直す可能性にも言及するなど、対中認識の転換が図られつつある。中東欧諸国における動きは、中国の「一帯一路」構想における欧州の玄関口という意味で、地政学的に大きな意味を持つ。2012年、中東欧16か国*31は中国との間に「16+1」*32とする枠組みを作り、中国からのインフラ投資を含め、経済・金融面での協力について年1度の首脳会合を行い、中国との関係を強化していた。こうした非EU加盟国も含む中東欧諸国の動向は、東西に格差を抱えるEUに楔を打ち込み、結束を揺るがす動き(トロイの木馬戦術)として警戒されていた。(3)豪州の対中姿勢豪州は、中国のWTO加盟(2001年)を端緒に資源や農産物の輸出先を中国に大きく依存する経済構造となっており、2015年には豪中FTAを締結し、AIIBにも原加盟国として参加する等、中国とは経済面において蜜月関係にあった*33。しかし、2016年以降、中国が南シナ海における影響力を強めると、豪州は中国共産党による内政干渉への懸念等を背景に中国を念頭に置いた法整備を進め、2018年には世界に先立って5G通信において政府調達からファーウェイを排除したことで、豪中関係は悪化の一途を辿っていった。そうした中、2020年4月、豪州(モリソン首相)が新型コロナの発生源について国際的検証の必要性を提起したことに中国が猛反発し、豪中間の対立が先鋭化した。これを受けて、中国は即座に豪州産牛肉の輸入一部停止、豪州産大麦へ反ダンピング関税措置等を発動26 ファイナンス 2021 Aug.SPOT

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る