ファイナンス 2021年8月号 No.669
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トナーシップ」(Comprehensive Strategic Partnership)と称する良好な関係を築いていたが、中国の「一帯一路」構想(The Belt and Road Initiative)への不信感、国営企業優遇の産業政策や、5G技術分野等における影響力拡大を背景に、EUは対中政策の見直しを図り、2019年の欧州首脳会議では「異なる統治モデルを推進する体制上のライバル(systemic rival)」と位置付けるに至った*22 *23 *24 *25 *26 *27*28。さらに、2020年半ば以降、中国が新型コロナの発生源解明に応じないことへの不信感に*22) ロレーヌ地方出身のドイツ系フランス人。ロレーヌ地方は第一次世界大戦以前はドイツ領であり、ベルサイユ条約によってフランスに割譲された。*23) 独仏国境沿いの炭鉱地帯であるアルザス、ロレーヌ、ルール、ザール地方の領有権を巡り、独仏間で戦争が繰り返されてきた。*24) 英国の他、オーストリア、スイス、ポルトガル、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーが加盟。*25) 英国、オーストリア、ポルトガル、スウェーデン、デンマーク、フィンランドはECの加盟に伴いEFTAを脱退している。なお、現在のEFTA加盟国はスイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインであり、いずれもEU非加盟国。*26) ECSC原加盟国(フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)に加え、1973年に英国、デンマーク、アイルランド(第1次拡大)、1981年にギリシャ(第2次拡大)、1986年にスペイン、ポルトガル(第3次拡大)で12か国となった。なお、1990年に東西ドイツ統一により旧東ドイツがECに編入している。*27) EU加盟国27か国のうち、ユーロ導入国は19か国(2021年7月現在)。*28) European Commission and HR0VP contribution to the European Council”EU-China̶A strategic outlook” (12, March 2019)*29) 中国当局者4名と1団体を対象として、EU内の資産の凍結や渡航禁止措置を講じた。加え、香港の統制強化や新疆ウイグル自治区における人権侵害、さらには南シナ海での一方的な現状変更の試み、法の支配の軽視等への懸念もあり、欧州各国の中国に対する猜疑心は高まっていった。こうした中、2021年3月、EUはウイグル族への人権侵害を理由に、1989年の天安門事件以来約30年ぶりに対中制裁を発動した*29。これに対し中国は即座に報復制裁を科す法律を制定したが、EUは返す刀で中国との包括的投資協定(CAI)の批准プロセスを凍結し、人権重視の強欧州統合の理念は、第一次世界大戦後に提唱された「汎欧州主義」(Pan-Europeanism)に端を発する。この理念は日本人の母を持つ日系オーストリア人リヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー(和名:青山栄次郎)によって提唱され、第二次世界大戦後に具体化された。フランスのシューマン外相*22は、軍事産業の基盤資源であり独仏紛争の火種*23である石炭と鉄鋼の共同管理を西ドイツ(アデナウアー首相)に提案し、1952年、仏・西独・伊・ベネルクス3国で欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が発足した。その後、同6か国(インナー6)で2つのローマ条約が締結され、1958年に、共通関税政策と資本・労働力移動の自由化等を取り入れた欧州経済共同体(EEC)及び原子力の共同開発・管理のための欧州原子力共同体(EAEC)が設立され、域内での市場統合が目指された。1967年にはECSC、EEC、EAECの運営機関が統合され、欧州共同体(EC)が発足した。英国はEECに対抗し、1960年、EEC非加盟の7か国*24で欧州自由貿易連合(EFTA)を設立したが、1973年にECに加盟することとなり、EFTAを脱退した*25。冷戦が終結し東西ドイツが統一されると、1992年、EC加盟12か国*26はマーストリヒト条約を締結し、通貨統合(単一通貨ユーロ*27の創設)と共通外交・安全保障政策(CFSP)の導入を規定し、ECを欧州の政治統合を目指す欧州連合(EU)へと発展させることとなった。EUは「超国家性」(Supranationalism)を有し、加盟国から一部主権を移譲され、独自の法令や司法審査によって私人を拘束することが可能である。また、独自財源を持ち、予算編成、課税、共通債発行を通じた財政運営を行っている。さらに、ユーロ圏においては金融政策についても通貨発行権を持つ欧州中央銀行(ECB)が担っている。2012年、「欧州の平和と調和、民主主義と人権の向上に60年以上にわたって貢献した」として、EUにノーベル平和賞が授与された。ただし、EUは大規模な共同体ゆえ、国家・民族・言語・宗教等の違いはもとより、独仏といった経済大国からクロアチアやブルガリアのような旧共産圏の小国、またギリシャやイタリアのような膨大な債務残高を抱える国まで、加盟国間の経済力・財政力にも大きな格差が存在し、移民問題や債務問題等、引き続き複雑な問題が燻り続けている。クーデンホーフ=カレルギーが印刷された切手コラム2:欧州統合への道 ファイナンス 2021 Aug.25新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第3回) SPOT

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