ファイナンス 2021年8月号 No.669
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ため、英国は1973年から半世紀近く加盟していたEU*16を離脱する運びとなった。国民投票の結果を受け、メイ首相、ジョンソン首相の下でEU離脱交渉が行われ、2020年1月末に英国はEUを離脱し、その後に設けられた移行期間*17についても同年12月31日に終了したことで、EU単一市場及び関税同盟からの完全離脱を果たした。ブレグジットが与えた影響として、まず、年明け直後には通関手続の復活による物流の混乱が見られた。また、ブレグジットに伴い英EU間の金融規制の同等性が失われることで、英国とEU市場との直接的な接点がなくなり、シティに拠点を置く金融機関が流出する等、国際金融センターとしてのロンドンの地位が相対的に低下することが危惧された。ただし、現在のところ大きな影響は生じておらず、ロンドンはその優位性を引き続き維持している。ユニオンジャックを振りEUに別れを告げるブレグジット党のファラージ党首(Getty Images)次に英中関係について見ると、2015年のキャメロン政権時には、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加をG7で最初に表明する等、英中は蜜月関係にあった。しかしながら、2020年初頭より中国の新型コロナへの初動対応を巡り対中懐疑論が高まっていたところ、同年6月末に中国で「香港国家安全維持法」が施行されたことは、英国の対中認識を覆す決定打となった。これに対し英国は、「一国二制度」を保障し、香港の高度自治を50年間保障するとした「英中共同声明」(1984年)に反するとして強く*16) 1973年の加盟時は前身のEC(欧州共同体)。その後、1992年にマーストリヒト条約(欧州連合条約)が調印されたことで、ECを基盤としてEU(欧州連合)が発足した。(コラム2参照)*17) ブレグジットによる混乱を避けるため、EU離脱後に移行期間が設けられた。その間、英国は様々な面でEU加盟国と同等の扱いを受けることとなっていたが、移行期間が終了するまでに通商協定を締結し通関手続きを整理する等、英EU間の将来関係を交渉し合意する必要があった。*18) 2020年7月、英国は香港市民(BNO旅券保持者)の英国永住権の申請や市民権獲得を許可するとともに、中国との犯罪人引渡条約を停止した。*19) 2017年1月に米国がTPPからの離脱を表明したため、米国以外の11か国で新たに「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP:Comprehensive and Progressive Trans-Pacic Partnership)を合意し、2018年12月に発効した。*20) 米国、英国、豪州、カナダ、ニュージーランドのアングロサクソン5か国による情報共有の枠組み*21) Eurostat“China among the EU's main partners for trade in goods, 2020”(25, March 2021)反発した*18。こうした中、2020年7月、英国は国家安全保障会議において、自国企業によるファーウェイの5G向け設備の購入を禁止し、2027年までに5G通信網からファーウェイを排除する方針を発表した。ジョンソン政権は、米国やその他の民主主義国家と連携し、中国に対して引き続き対抗する姿勢を維持するものと見られる。ブレグジットの動きと並行して、英国は近年インド太平洋地域に軸足をシフトしつつある。2016年、メイ首相は「グローバル・ブリテン」を標榜したが、価値観を共有する国々と連携し、インド太平洋地域における関与を深めようとする英国の狙いが見て取れる。その後、英国はジョンソン政権の下、2020年10月には日英包括的経済連携協定(EPA)を締結し、また2021年に入ると発足メンバー以外として初めてCPTPP*19への加入を正式に申請した。さらに、中国への対抗を念頭にG7を「民主主義10か国」(D10)に拡大する構想を掲げており、2021年のG7サミットにもインド・豪州・韓国を招待した。安全保障面においても、ファイブ・アイズ*20との連携を含め機密情報の共有拡大を日本に呼びかけ、また、最新鋭空母クイーン・エリザベスを含む空母打撃群を東アジアに派遣することを決めた。今後QUADや「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)といった枠組み・戦略等に対しても何らかのアプローチがあるのか、歴史的転換点を迎えた英国のインド太平洋戦略が注目される。(2)欧州各国の対中姿勢欧中関係を見ると、貿易額は順調に増加し、中国からEUに対する直接投資残高も右肩上がりであった。2020年の統計*21を見ると、EU加盟国の輸入相手1位は中国であり、全体の輸入額の2割強を占めている。また、輸出についても米英に次ぐ第3位の輸出先であり、全体の輸出額の1割を占めている。こうした経済環境を受けて、欧中は2000年代から「包括的戦略パー24 ファイナンス 2021 Aug.SPOT

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