ファイナンス 2021年8月号 No.669
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*1貴重な紙面を頂戴し3か月間にわたり連載しているが、惜しむらくは今回が最終回。過去2回の寄稿で書いてきたように、2020事務年度の財務省国際調整室は、新型コロナウイルス感染症(第1回参照)や、米国大統領選挙(第2回参照)を始め、国際情勢を動かす様々な出来事に直面してきた。加えて、世界はデジタル技術の急速な発展等によっていよいよ複雑化している。今回は、こうした事情を背景とした米国及び主要各国の政治情勢や、中国への対応を軸とした今後の国際秩序の行方について、米中両国において留学生活を経験した筆者の視点から概説していきたい*2。1米国バイデン政権の政策米国では、2020年11月に実施された大統領選挙の結果、4年続いた共和党のトランプ政権が幕を閉じ、民主党のバイデン政権が発足した。バイデン大統領は、トランプ政権下で顕在化した米国社会の分断を修復すべく、党派を超えた米国の結束を訴え、新型コロナ対策、経済再建、人種、気候変動の4分野を政権の優先課題として設定した。同時に、「米国第一主義」(America First)を掲げる等、保護主義・孤立主義的な色彩が強かったトランプ政権の外交方針を転換し、国際協調を重んじる姿勢を示した。他方、対中政策についてはトランプ路線を概ね継承し、引き続き厳しい姿勢を見せている。*1) 激動の国際情勢に思いを馳せつつ、この度の人事異動で新米課長補佐は国際局を離任することとなった。国際局も課長補佐ポストも初めての経験であり、右も左も分からぬ若輩者に関係各位から温かいご指導を多数賜ったことを、この場を借りて改めて感謝申し上げる。*2) 本寄稿における意見は筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではない。なお、本稿の記述内容は原則として2021年7月10日時点の状況に依拠する。*3) この他、新型コロナ対策、環境保護、イスラム圏諸国からの入国制限措置の撤廃等を決める多数の大統領令に署名した。*4) 財務省関連では、イエレン前FRB議長が財務長官として指名され、国際金融分野についても多国間主義が志向された。例えば、国際課税分野については、経済協力開発機構(OECD)やG7・G20といったマルチの枠組みにおいて、法人税の最低税率を15%以上とする国際課税ルールを提案し、130の国と地域で大枠合意を取り付けることに成功した。また、いわゆるGAFAMといったグローバルに活動する巨大IT企業に対して新たな税負担を求めるデジタル課税についても、強硬な反対姿勢を示していたトランプ政権の方針を転換し、導入に向けた国際的合意の実現に貢献した。*5) ブリンケン国務長官は米中関係について「必要に応じ競争的(competitive where it should be)、可能な場合には協力的(collaborative where it can be)、そうしなければならない時には敵対的(adversarial where it must be)」と発言し、中国に対して「adversarial」と踏み込んだ表現をしている。*6) 日米豪印4か国による安全保障等で協力する戦略対話の枠組み。(1)多国間主義多国間主義を重視するバイデン大統領は、就任初日の2021年1月20日から、パリ協定への復帰や世界保健機関(WHO)からの脱退撤回を決める大統領令に署名し、米国を国際的枠組へ復帰させるとともに、トランプ政権における単独行動主義からの政策転換を明確に打ち出した*3。バイデン大統領は、外交演説において「米国は各国との同盟関係を修復し、再び世界に関与していく」と表明し、就任から半年以上が経過した現在も、G7や北大西洋条約機構(NATO)といった価値観を共有する国々との連携を強化し、日本や豪州等の同盟国との協調を重視する外交スタンスを継続している*4。(2)対中強硬姿勢他方、中国については、「戦略的競争相手」と位置付けたトランプ政権の対中強硬路線を踏襲している。ブリンケン国務長官は中国を「国際システムに深刻な挑戦をする唯一の国」と見なし、対中強硬姿勢を堅持するメッセージを発した*5。バイデン大統領は米中対立を「民主主義と専制主義の対立」と位置付け、同盟国と結束して対応する姿勢を示しており、就任直後の3月には、「対中包囲網」の構築を狙い、日米豪印戦略対話(QUAD)*6のバーチャル首脳会談を開催した。また、人事面では米国家安全保障会議(NSC)でアジア政策を統括するポストとして「インド太平洋調整前*1国際局地域協力課国際調整室 庄中 健太新米課長補佐の目から見る 激動の国際情勢(第3回)―米中対立を軸とした国際秩序の再編―22 ファイナンス 2021 Aug.SPOT

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