ファイナンス 2021年8月号 No.669
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こうした取り組みは、全て感染対策の一環ですが、出席者の動線や会合の進行にも一定程度の影響を与えました。新型コロナウイルス感染症拡大以降に開催された会合ならではの出来事として象徴的であったといえます。2日本側の徹底した感染対策今回の大臣訪英で何よりも重視したのは、感染対策の徹底です。麻生大臣は国会会期中のため、日本帰国後も国会へ出席し公務をこなす必要があります。英国政府からの要請に加え、日本側としても万全の感染対策を講じました。以下では、このうち一部をご紹介させていただきます。まず、出張者については、G7の業務に関連する範囲に行動を厳格に制限しました。また英国滞在中の面会相手を限定し、現地で不特定多数の人と接触出来ないよういわゆる「Bubble(バブル)」を形成しました。結果、筆者も含め、出張者の中には、滞在期間中、会場のランカスターハウスはおろかホテルから一度も足を踏み出さずに帰国する者もいました。また、人数制限や社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保にも努めました。具体的には、出張中の作業部屋や勉強会部屋等、ホテルの会議室内で出張者が集まる際には厳しい人数制限が敷かれました。また出張者がホテル・会場間を移動する際の車内でも、密な空間とならないよう、乗車可能人数の約半数の人員で移動しました。宿泊先ホテルで行われた記者会見は、対面形式で現地特派員を対象に実施しましたが、参加人数を制限し、大臣と記者の間には十分な距離をあけたうえでアクリルパネルを設置するなど、感染対策を徹底しました。更に、感染経路として最も懸念される食事中の会話を防ぐため、食事は原則として宿泊ホテルのルームサービス、もしくは会場内にて提供された食事(お弁当のようなランチボックス等)等に限定しました。不特定多数の人との接触が懸念されるホテル内レストランの利用を禁止することで、感染リスクを最小限に留めました。これらの感染対策のほか、出張前後および出張期間中は、全出張者が複数の検査を実施しました。まず日本出国前に、英国入国時に義務付けられるPCR検査を実施しました。この検査は、英国入国72時間前以内に実施し、英国政府が求める条件に合致した陰性証明書を発行してもらわなければなりません。英国到着後は、英国政府が今回の各国代表団に求めるPCR検査を初日に受検し、さらに迅速抗原検査と呼ばれる簡易的な検査を毎朝受検しました。この迅速抗原検査は、30分程度で検査結果が判明するタイプのものでした。毎朝起床とともに各自ホテルの客室内で受検し、結果判明後に出張者全員へメールで報告することとしました。出張期間中は、この陰性報告メールが出張者間での起床の合図のようになっていました。この他にも、日本への入国時提出用に現地でPCR検査を1回、帰国時の空港で抗原検査1回、更に帰国後3日目にもPCR検査を1回受検する必要がありました。合計で1人当たり約8~10回検査を受けたことになります。また、現地で支援をいただいた在英大使館の職員・運転手等についても同様にPCR検査や迅速抗原検査を実施しました。感染対策を徹底した効果もあり、今回の出張では財務省・金融庁からの出張者、および在英大使館の職員・運転手等について、一人も陽性者を出すことなく無事会合を終えることができました。3英国政府の厳しい制限厳重な感染対策を敷いたのは英国政府側も同様です。英国政府は、感染リスクを抑えるために各国からの出張者数を厳しく制限しました。このため、今回の出張では通常の大臣出張よりも日本から派遣する出張者数を減らしました。現地では限られた人員で大臣のサポートや会議の交渉にあたることとなり、各出張者は睡眠時間を惜しんで対応に当たりました。特にG7の会場内は人数制限が厳しく、参加者が一人何役もこなす場面もありました。また、東京からも遠隔で手厚いサポートをもらうことで、無事に出張を乗り切ることができました。大臣出張の円滑なサポートのためには、一定の出張人数が求められますが、十分なサポート要員の確保と万全な感染対策とのトレードオフは当面免れないと考えられます。 ファイナンス 2021 Aug.17新型コロナウイルス感染拡大後の海外出張について SPOT

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