ファイナンス 2021年8月号 No.669
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期化に伴う制限措置の影響により、回復の速度が全ての国・地域で一様とはならないとも指摘している*3。また、世界銀行は、先進国においては経済の回復が進む一方で、新興国においては感染の再拡大やワクチン接種の遅れが障害となることを指摘している*4。主要3ヵ国の状況を個別に見ると、まずインドネシアについては、各機関とも、2021年には4.0%以上、2022年は5.0%以上の成長率に達すると予想している。他方、アジア開発銀行の報告書(2021)ではCOVID-19の突然変異の脅威やワクチン接種の不均一、さらには予期せぬ世界的な金融引き締めが起こった場合の負の影響に留意する必要があるとされている*5。タイの成長率についても同様に、各機関から2021年、2022年は回復基調となるとの予想が得られている。ただし、足下の動向を見ると、2021年第1四半期は前期比年率で2.6%減となり、5期連続の減速となった。これは、COVID-19の影響でサービス収支が低下したこと、および2020年末に感染が再拡大したことで消費支出に負の影響が出たことによる。ベトナムにおいても、2021年や2022年は6%以上の成長率が予想されている。上述した通り2021年1月末にCOVID-19の集団感染が確認され、経済への悪影響が懸念されたが、経済活動を維持・促進する政府の方針もあり、足下では回復が見られ、2021年第1四半期の成長率は前年同期比で4.5%増となった。*3) IMF Regional Economic Outlook Oct,2020(https://www.imf.org/en/Publications/REO/APAC/Issues/2020/10/21/regional-economic-outlook-apd)*4) 世界銀行 Global Economic Prospects June,2021(https://www.worldbank.org/en/publication/global-economic-prospects)*5) ADB Asian Development Outlook April,2021(https://www.adb.org/publications/asian-development-outlook-2021)*6) ASEANワークショップ(https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/asean_list.htm)*7) 本ワークショップの座長は、平成28年度の第1回以降、浦田名誉教授(早稲田大学)に委嘱している。本ワークショップの運営にご協力いただき改めて感謝申し上げたい。3ASEANワークショップの取り組み(1)概要財務総研では、ASEAN諸国の政治や経済の情勢、政策等に対する理解を深めることを主眼とし、ASEAN各国の情報・意見交換を行う「ASEANワークショップ」を開催している*6。本ワークショップは2016年に第1回を開催して以来、2020年度で5年目を迎えた*7。毎回、政治・経済等の各分野の有識者を発表者として迎え、省内外の多くの出席者によるディスカッションが行われている(図表4)。図表4 直近2ヵ年(2019年度・2020年度)のトピック2019年度第1回・スーチー政権下のミャンマー政治・経済情勢・ミャンマーにおける金融市場の現状と中小企業金融の課題第2回・新興国の医療保障制度の構築に向けて~ベトナムの医療保険制度に関する調査研究~・ラオス財政安定化プログラムの最終報告と今後の見通し・新型コロナウイルス感染症の広がりとASEAN諸国の経済政策・インフラ開発に与える影響・新型コロナウイルス感染症の影響:アンケート調査を通じたASEAN各国における中小企業の資金需要等2020年度第1回・新型コロナがASEANの日系企業・サプライチェーンに与える影響・中国とASEANの金融協力第2回・タイのマクロ経済情勢・コロナ後のASEAN貿易第3回・ミャンマー情勢 クーデタの背景、影響、⾏⽅・ミャンマーの政治・経済情勢とアンケート調査を通じた業種別の資⾦需要動向・インドネシア最新経済動向と進出⽇系企業の動向2021年2月に開催した本ワークショップでは、タイ財政政策研究所(以下、FPRI)の研究者2名によるオンライン形式での発表が行われた。当日は、緊急図表3 各国際機関によるASEAN9ヵ国の実質GDP成長率の見通しIMF世界銀行ADB202020212022202020212022202020212022カンボジア▲3.54.26.0▲3.14.05.2▲3.14.05.5インドネシア▲2.14.35.8▲2.14.05.0▲2.14.55.0ラオス▲0.44.65.60.44.05.0▲0.54.04.5マレーシア▲5.66.56.0▲5.66.04.2▲5.66.05.7ミャンマー3.2▲8.91.41.7▲10.0-3.3▲9.8-フィリピン▲9.56.96.5▲9.64.75.9▲9.64.55.5シンガポール▲5.45.23.2---▲5.46.04.1タイ▲6.12.65.6▲6.12.25.1▲6.13.04.5ベトナム2.96.57.22.96.66.52.96.77.0(出所)IMF World Economic Outlook April,2021、世界銀行Global Economic Prospects June,2021及びADB Asian Development Outlook April,2021を基に筆者作成12 ファイナンス 2021 Aug.SPOT

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