ファイナンス 2021年7月号 No.668
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(2)ローン供与条件の透明性について本稿で取り上げた開発機関のうち、EIBを除くマルチの開発機関は、それぞれローンの供与条件を公表していた。バイの開発機関においては、JICAは詳細な供与条件表を公表している。KfWは経済開発協力省(BMZ)のホームページなどで基本的にIDAと同様の条件でローンを提供している旨の記載を確認できた。AFD、CDBのローン供与条件は、年次報告書やホームページからは確認できなかった。EIBは4-20年のローンを提供するとしつつ、実際の満期、金利、返済猶予期間などの供与条件は通常、守秘義務の範囲に入るとし、意図的に公表していない。実際のプロジェクトにおいては、グラント資金とローンの組み合わせや、様々な譲許性のローンが組み合わされて提供されることは多い(テーブル6参照)。各機関の供与条件がそもそも公表されていることが望ましいが、あるプロジェクトで複数の開発機関が協働するためには、少なくとも資金を提供する開発機関同士がお互いの供与条件を承知し、納得していることが重要である。世界銀行が関与した協調融資の案件について、承認のための評価書や実施後の完了結果報告書を見ていくと、数は多くないが協調融資における供与条件が記載されている。これらは公表資料であり、テーブル6として例示する。グラントエレメントは一定の前提の下で計算した参照値である。*24*24) プロジェクト評価書(2015年4月6日、レポート番号89594)より。テーブル5のIDAレギュラー(グラントエレメント53.8%)と比べて、テーブル6におけるIDAのグラントエレメント(62.1%)が高く出ているのは、総額200百万ドルのうち、計算上、返済不要の資金として扱われる技術協力を37百万ドル含んでいることによる。協調融資先のうち、AfDB、KfWのグラントエレメントはIDAと並ぶレベルの譲許性となっている。EIB、イスラム開発銀行、AFD、クウェート・ファンドは、IDAの半分以下のグラントエレメントとなっている。西アフリカ開発銀行は、ベナン、ブルキナファソ、コートジボアール、ギニアビサウ、マリ、ニジェール、セネガル、トーゴを主な株主(合計のシェア93.7%)とする地域の開発機関である。先進国等の株主も存在するが、そのシェアは6.3%と低く、格付けはBaa1(ムーディーズ)、BBB(Fitch)で、資金調達先を見ると、AFD、KfW、IDAからの借り入れも存在するが、債券発行がメインの資金調達手段となっている(2019年12月現在の財務諸表より)。当該機関の直近の債券発行(2021年1月)で、スワップレートへの上乗せスプレッドは300ベーシスポイントとなっているが、2015年時点の調達金利にプロジェクトのリスクを加味した貸出金利は、結果としてグラントエレメント算出の際に使用する割引率5%を超過しており、本稿ではグラントエレメント0と表現した。貸出金利は、資金を貸し出す機関の調達金利にリスク等を加味したスプレッドを上乗せして決まってくるものであり、そもそも国際資本市場へのアクセスが自国単独ではできなかったり、出来たとしてもより高い金利でしか債券発行できない場合も存在し、グラントエレメント0とした貸し出しに何か問題があるというような趣旨ではないことを付言する。最後に、本稿を書くにあたり、世界銀行、IMF、財務省の、上司、先輩、同僚、友人の皆様から貴重なご意見をいただいたことに深く感謝して本稿を終える。テーブル6:協調融資における供与条件の例*24国プロジェクトIDプロジェクト名承認日セネガル、ギニア、ギニアビサウ、ガンビアP146830ガンビア川開発機関・電力接続プロジェクト2015年4月29日機関金額(百万ドル)満期(年)返済猶予期間(年)グラントエレメント(%)備考IDA20038662.1TAを含むAfDB135401067.7EIB10620533.4イスラム開発銀行9425525.2西アフリカ開発銀行521230貸出金利が割引率より高いAFD5225525.2KfW54401057.9クウェート・ファンド2420430.4(注)グラントエレメント計算のもととした想定金利にはサービスチャージを含む(このプロジェクトにおいてはAfDBのサービスチャージは0であり、テーブル5と異なるグラントエレメントとなっている)。IDAの200百万ドルのうち、163百万ドルがクレジット、37百万ドルが技術協力。キャッシュフローは年二回均等返済とし、IMFウェブサイトのグラントエレメント計算機能を利用。76 ファイナンス 2021 Jul.海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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