ファイナンス 2021年7月号 No.668
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(2)資本金、借入額*8 *9マルチの開発金融機関も、バイの政府系開発金融機関も、基本的な財務構造は、株主たる各国政府が投入した資本に、(信用力が劣る途上国より)有利な条件で発行する債券による資金調達を加え、さらに貸出からの金利収入から一般管理費等の費用を引いた額を加え、これら*10を原資とし、途上国に融資するというものである。すなわちグラントエレメントが25%より低く、ODA適格でない貸出であったとしても、途上国にとっては自身で債券発行するよりは低利で資金調達できる仕組みである。これに加え、マルチの開発金融機関においては応募資本の一部を請求払いとすることで、株主たる各国政府からの実際の資本金の払い込み額を低く抑えつつ、高い格付けを維持する仕組みとなっている。市場における安定的な債券発行においては、財務が健全であることととも*8) EU加盟国向け以外には、英国、EU加盟候補国、候補見込国を含む(チャート2の途上国向け貸出残高においては、英国等先進国向けの貸出を除外している)。*9) EIBの2020年署名された業務量661億ユーロの内、93億ユーロを占める域外国への貸し付けについては、そのほとんどについてEUの域外貸出権限(External Lending Mandate)に基づくEUの保証、またはCotonou条約に基づくEIB加盟国の保証を裏付けとしている。*10) 過去の融資に対する返済、IDAの場合IBRDからの純益移転も原資となる。*11) EIBは、要求払資本の額を市場借入の額が超過しているが、払込済資本と準備金を合わせた自己資金合計(Total own funds)が721億ユーロ(前年737億ユーロ)存在。また域外国への貸付の一部には加盟国、EU予算から保証が付与されている。*12) 参照金利であるLIBORの移行を控え、2021年4月以降、IBRD固定スプレッド変動ローンの提供は停止された(連動してIDAの非譲許的貸出のうち該当する部分も停止)。*13) 2018年4月、初めてのIDA債が発行された。*14) JICAは2020年9月末時点の有償資金協力勘定、CDBは2019年12月末時点、その他は2020年12月末時点。に、定期的かつタイムリーで、質の高い情報開示がされていることが重要である。テーブル1に並べてみると、MDBs、EIB、AIIBというマルチの機関において存在する請求払資本額は、実際には手元にキャッシュとして入ってこないため、市場借入を活用して実際に貸し出しをする際に必要なキャッシュを調達している姿が見える*11。株主側から見れば、資本金として実際に入金した資金額と比べ市場借入を利用することで開発金融機関が大きな貸出能力を持つこととなっている。最貧国に資金を提供する世界最大規模の援助機関であるIDAには請求払資本は存在せず、IDAのバランスシート全体の中でグラントを含む譲許性貸出を主に資本金に基づき、非譲許的貸出*12を主に市場借入*13に基づき、実施している。*14 また、KfW、AFD、JICAというバイの政府機関にEIBとKfWのチャート1と2における順位の差はどのように生じるのか、年間の事業量の内訳から読み解く。EIBの年間事業量の内、域外国向けは13%、KfWの年間事業量の内、開発業務が9%となっている。これらが積み重なっていくことで、全業務を含むバランスシートの総資産額を表す「チャート1:EIB、KfWが1位、2位」と、域外国向け・開発業務のみを抜き出した貸出残高「チャート2:EIB、KfWが6位、8位」という順位の差が生じている。チャート2-1:EIB年間事業量661億ユーロの内訳について*8 *9うちEU加盟国向け87%うち域外国向け13%チャート2-2:KfW年間事業量1,353億ユーロの内訳についてうち国内ビジネス向け79%うち開発関連9%うち金融市場向け0%うち輸銀業務12%コラムEIB、KfWの事業量についてテーブル1:資本金・借入額*14 (億ドル)IBRDIDAADBIADBEIBAIIBKfWAFDJICACDB(応募)資本2,9281,7481,5321,7682,84396836372765605内請求払い2,74201,4561,6492,5897740000内払込済1861,748771182541933838765605借入2,6792441,2881,1004,9731165,67146228513,98572 ファイナンス 2021 Jul.連載海外 ウォッチャー

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