ファイナンス 2021年7月号 No.668
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1 はじめに*1筆者は直近3年間をワシントンDCにある世界銀行で過ごす機会に恵まれた。今回機会をいただいたので、開発に携わる金融機関にはどういった国際機関(マルチの機関と言われる)があり、またどういったバイの開発機関(政府機関)があり、それぞれどのくらいの規模を持ち、どういったファイナンスツールで事業を行い、今般のパンデミックを受けどのようにバランスシートを変化させたか、概観してみたい。資金需要(受益国)側から見れば、コロナ禍以前から、途上国が持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の2030年までの達成に向けて必要とする資金と比べて、ODAとして供給される資金にはギャップがあるとされてきたが、パンデミック対策で先進国の財政余力が少なくなる中、さらにODA資金の希少性が増している中で、特に規模感、譲許性などに関心があろう。資金供給(マルチ・バイの開発機関へ出資・拠出する政府・国民、債券投資家)側から見れば、今般のパンデミックを受け(どの機関がどういった対応を行ったかの質的な面は専門家に譲るとして)純粋に財務の面でバランスシートがどの程度拡大したのか関心があろうし、いまだパンデミックの影響は続いており、開発機関の年次報告書、財務諸表の公表時期のずれがあり簡単ではないものの、現時点での最新情報に基づき情報の棚卸を行う。*1) 執筆時(2021年6月)現在途上国への援助は、多くの場合譲許的(贈与も含め低利)である。各機関がどういった財務構造でどの程度譲許的な資金を供給しているのか、ファイナンスツールのメニューも可能な限り比較してみたい。今回取り上げるのは、協調の機会の多い政府向け融資を行っている機関で、マルチの機関から世界銀行(国際復興開発銀行(以下IBRD)、国際開発協会(以下IDA))、アジア開発銀行(以下ADB)、米州開発銀行(以下IADB)、また規模は小さいが協調の機会の多いアジアインフラ投資銀行(以下AIIB)、同様に主要援助国のうち融資を行うバイの開発機関として国際協力機構(以下JICA)、フランス政府系開発金融機関Agence Française de Développement(以下AFD)とする。これに加え、欧州投資銀行(以下EIB)、ドイツ政府系金融機関Kreditanstalt für Wiederaufbau(以下KfW)、中国政府系開発金融機関・国家開発銀行(以下CDB)についても、途上国政府向け融資を行っており対象に加える。なお、本文中意見にわたる部分は筆者の個人的なものであり、新旧所属機関とは一切関係ない。数字は各機関の年次報告書、財務諸表によるが各機関の報告対象期間のずれや頻度の差、データの定義が異なるため、一覧にしていても必ずしも各機関同士の比較に適さない場合がある。記載に誤りがあればご指摘いただければ幸いである。海外ウォッチャー世界銀行 シニア・ファイナンシャル・オフィサー 倉澤 辰一郎*1FOREIGNWATCHER開発金融機関の財務構造・譲許性について ―パンデミック対応を受けた開発機関のバランスシートの変化70 ファイナンス 2021 Jul.連載海外 ウォッチャー

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