ファイナンス 2021年7月号 No.668
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われました。これから公共部門で様々なデジタル化が行われていく際に「とにかくデジタル化すればいいのだろう」となってしまうと、まさにこの「間違った仕様で正しく作る」が起きてしまいます。特に幹部の方は「間違った仕様で正しく作るな」ということを現場の方に言っていただきたいと思います。ウ.マイナンバーとの連携三つ目に重要なことは、行政データを全てマイナンバーと連携させることです。それはパーソナライズが理由です。皆さんは既に、民間のインターネットサービス上ではパーソナライズされたサービスを快適に使っているはずです。ヤフーのタイムラインもそうですし、Amazonで本を買おうと思ったときには、皆さんの興味がある本が既にトップページに出ています。このように、デジタルの民間サービスにおいては、パーソナライズされたサービスを受けることに既に慣れていますので、行政サービスもデジタルの上ではパーソナライズされるべきだと思います。例えば、私は一昨年の台風15号で自宅が被災して家がかなり壊れました。初めて罹災届や様々な手続きをするために市役所まで行きましたが、被害の状況が人それぞれなのにもかかわらず、杓子定規というか、固定的な書類やアドバイスしか得られませんでした。こうした災害時などに行政がアプリを通じて「こんな被害に遭ったのではないですか」「その場合にはこういう行政のサービスがありますよ」ということをどんどんパーソナライズして情報発信してくれると「行政サービスは全くクオリティが変わった」となるのではないでしょうか。そのためには、やはり行政データとマイナンバーの連携が前提になりますし、それはすなわちパーソナライズされた確定申告、納税をすることができるということですから、国の様々な課題にも応えられるのではないかと思います。2.新生Zホールディングス最後に3月にLINEと経営統合を果たすヤフーの抱く危機感や志を述べたいと思います。(1)グローバル・テックジャイアント今、世界を見渡すと、いわゆるグローバル・テックジャイアントという巨大企業が世界中のインターネットサービスを席巻しつつあります。ニールセン デジタル株式会社が発表した2020年度に日本で最も使われたデジタルサービスのトップ10をみると、大半がいわゆるGAFAのサービスで、一矢報いているのはヤフーと楽天です。(こちらのニールセンの発表では)ヤフーは1位ですが、この調査ではYouTubeが含まれていないため、実際にはYouTubeを保有しているGoogleが1位で、「日本の道路で走る車の大半がアメ車」という状況が今の日本です。便利だからそれでもいい、という割り切りはあると思います。私自身ももちろんGoogleを使えばYouTubeも使うし、Facebookも使っていますが、問題なのはGAFAなり中国のBATと呼ばれるグローバル・テックジャイアントが今まで日本があまり得意ではなかったデジタル産業だけではなく、デジタル産業を超えて日本が得意としている分野にも進出して、市場を席巻することです。その結果、法人税が入らなくなるということにつながっていきます。(2)日本産業への影響大和総研が2019年2月に発表した「日本の重点産業分野におけるGAFAの進出状況」をみると、既にほとんどの重点分野にGAFAが進出しています。研究開発に多額の費用を投入しているGoogleやAmazonがAIを用いてデータドリブンの技術を活用すれば、既存のプレイヤーよりも高い効果、高い生産性を出して既存プレイヤーを追い出してしまうこともあると思います。これが日本にとって最も大きな課題であり、我々の危機意識もここにあります。皆さんは、「GAFAは本当にそんなことができるのか」と思うかもしれませんが、最終的に技術を磨くというのはお金のパワーです。お金があれば優秀な研究者を雇うことができて、良い基礎研究ができて、それを応用研究に繋げ、プロダクトにまで繋げることができます。ですから、研究費は未来創造の原資というわけです。GAFAにMicrosoftも加えたGAFAMの研究費総額が、日本企業の研究費総額を上回りそう、あるいは、 ファイナンス 2021 Jul.67職員トップセミナー 連載セミナー

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