ファイナンス 2021年7月号 No.668
70/92

用することで、ネット企業は365日24時間、サービスを改善、成長させています。実際、これら一つ一つの改善というのは、ものすごく大きな効果を生み出すことはあまりなく、0.何パーセント程度の成長がほとんどですが、ここで、もう一つ重要なポイントがあります。それは複利です。改善を繰り返すということは、プラス0.何パーセントという成長をたくさん繰り返すということで、時間さえあればどんどん複利が効いていきます。その一つ一つの効果は数パーセントしかないかもしれませんが、それが繰り返されることによってやがて宇宙が出来上がる、それくらい複利はすごいとアインシュタインも言っています。時間が必要かもしれませんが、各種政策をデータドリブン化し、複利の効果を得ることによって財政再建を果たしていただきたいと期待しています。ここまでの話をまとめますと、データドリブン化が前提となりますが、KGI、KPIツリーで目標・効果を明確にして管理をする、それで政策をリアルタイムで改善しターゲティングで無駄打ちを減らす。PDCAサイクルによって効果測定を積み重ね、効果が複利で向上する、ということです。これはインターネット企業が実際にやっている管理手法で、たった5社の米国インターネット企業の時価総額合計が日本の東証一部上場の全企業を合わせた時価総額よりも高いという状況をみれば、この方法の効果が高いことが分かります。財政再建に向けて、デジタル庁のみならず、むしろ財務省、金融庁が公共部門のデジタル化を推進していただきたいと思います。(3)目的・ビジョン「在宅勤務八策」で重要なもう一つの策は「目的・ビジョン」です。行政のDXが正しい方向で目的に則した形で推進されるためには、私は三つのことが重要だと思っています。ア.ユーザーファーストまず一つ目は、「徹底的にユーザーファーストにこだわる」ということです。インターネット事業は恐ろしい業種で、あるサービスが使いづらいとなったらすぐにライバルのサービスに移行されてしまいます。ですから、サービス提供者はユーザーが何を考えているかを徹底的に推察して、それにあったサービスに磨き込んでいくのです。行政のDXにおいても、国民あるいは住民がどう使ってくれるのか、便利に使っているのかという点に徹底的にフォーカスしてサービスを磨き込んでいくことをぜひお勧めしたいと思います。我々が3月に統合を果たすLINEは、日本で最も使われているアプリです。数億以上ダウンロードされていることからも分かるように、ユーザーに受け入れられているサービスと言えます。一方、マイナポイントのアプリのダウンロード数はまだそこまで多くはなく、ユーザーレビューもさほどよくありません。ですから、マイナポイントのアプリも徹底的に磨き込んで良いものにしていく必要があると思っています。公共部門をデジタル化するにあたってよく言われることは「高齢者は使えないでしょう。」「高齢者の方を置いてきぼりにするわけにいかないでしょう。」ということです。しかし、サービスを磨き込めば磨き込むほど、高齢者にも利用しやすいものになります。LINEは、まさにその良い事例です。50歳以上の方が3割も占め、比較的年齢の高い方も使うことのできるサービスになっています。このように、ユーザーファーストにサービスを磨き込むということが公共部門のデジタル化において最も重要なことだと思っています。イ.正しい目的・コンセプト二つ目に重要なことは、「正しい目的・コンセプトを以って推進する」ということです。私は20代の頃、ヤフージャパンの事実上の創業者である井上雅博社長に「ヒットしないサービスを作る者は、間違った仕様で正しく作ろうとしているのだ。そのサービスを、何のために、どういうコンセプトで作るのかということを徹底的に議論して作り込め。」と叱られました。「正しい目的、コンセプトで作られたものは、多少事故やバグがあってもニーズがあるからどんどん使われていくが、目的やコンセプトを間違うと、目も当てられない。よく起きがちなのは、目的やコンセプトを余り議論しないで、どう作るかとか、出来上がった仕様だけを正しく作るということに注力してしまうこと。そこの主客転倒は絶対にやめろ。」ということを、よく言66 ファイナンス 2021 Jul.連載セミナー

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る