ファイナンス 2021年7月号 No.668
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2.3  新型コロナウイルス感染拡大が一帯一路の一環としてチャイナ・ランドブリッジの運航に与えた影響(発表者:株式会社日通総合研究所リサーチフェロー 田阪幹雄)CLBとは、日本の港から中国の雲連港・天津新港等中国の港湾までの航路、それらの港湾からロシア・カザフスタン国境までの中国鉄道、ロシア・カザフスタンから中央アジア各地や欧州までのシベリア鉄道を組み合わせた、インターモーダル輸送(複合一貫輸送)である。インターモーダル輸送とは、貨物を積んだコンテナを、複数の輸送モード(船、トレーラー、鉄道)に載せ替えて輸送するシステムを意味し、1950-60年代に荷役の自動化やオペレーションの標準化に伴って世界各地に普及した。例えば北米の大陸横断鉄道では、コンテナの2段積みや長編成列車による大量輸送が行われており、アジアから米国内陸部や五大湖周辺に向かう貨物の多くが、西海岸の港から大陸横断鉄道で輸送されている。東アジアから欧州への輸送では、スエズ運河もしくは喜望峰経由の航路に加え、ロシアの極東地域からシベリア鉄道を利用するシベリア・ランドブリッジ(SLB)とCLBが選択可能である。CLBはSLBよりも約2,000km距離が短く、中国からドイツまでのリードタイムは海路よりも10日短い約20日となっている。CLBを走る定期コンテナ列車である中欧班列は2011年に運行を開始し、2013年に提唱された一帯一路の象徴として位置付けられている。新型コロナウイルスがCLBに与えた影響については、旅客航空便の減便が相次ぎ、旅客機の貨物室を利用する航空貨物の輸送量が減少した。また、欧州に空コンテナ、中国に実入りコンテナが滞留する中で欧州に寄港するコンテナ船が減少し、中国から欧州への海上輸送も大きく減少し、海上運賃も高騰した。これらの理由から、コロナ禍においてCLBの利用は急増し、2020年の輸送量は前年から50%以上増加している。ただし、2020年のCLBのコンテナ輸送量は海路の5%未満、CLBとSLBを合わせたユーラシア・ランドブリッジの輸送量でも海路の20%未満に過ぎない。ユーラシア・ランドブリッジの輸送力増強が難しい原因として、以下のような課題が存在する。まず、国によって軌間(線路の幅)が異なるため、中国と欧州の間で2回、貨車の積み替えや編成替えが必要となり、プラットフォームの手配待ちによる列車の遅延や、荷役コストによる価格競争力の低下が発生している。さらに、国ごとに貨物運送に関するルールが異なり一貫運送責任が困難であることや、国境を超えるたびに保税運送手続きや他法令関係の手続きが必要となることなども、課題として挙げられる。2.4  COVID-19と国際海上コンテナ輸送の動向(発表者:拓殖大学商学部教授 松田琢磨)コンテナ不足については、新型コロナウイルス感染拡大による外出制限の影響を受けた荷主のコンテナ受取りの遅れや労働者不足による港湾処理の遅れに加えて、米中貿易摩擦を受けて2019年末以降コンテナの輸送量が減少し、新造コンテナの生産が抑制されたことが背景にある。さらに、労働者不足や本船のスペース不足は港湾の沖待ちなど激しい混雑をもたらした。一方で、感染拡大後もコンテナ輸送の需要は変わらず、サービスから実物消費への転換等の「巣ごもり需要」が加わった。在庫確保のための需要も堅調であった。需要が増加したことに加え、コンテナ輸送が2020年後半に集中したことにより、世界中でコンテナ不足の連鎖が生じた。上記のコンテナ不足と需要増加により、コンテナ輸送の運賃が上昇し、また輸送の遅延が発生している。運賃については、特にスポット運賃が上昇し、契約運賃との差が拡大している。また、2020年夏以降、コンテナ輸送の遅延が本格化し、2021年3月時点でも定時到着率は4割程度である。なお、日本発着航路は62 ファイナンス 2021 Jul.連載日本経済を 考える

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