ファイナンス 2021年7月号 No.668
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国内港湾の抱えるリスクと近年の動き・基幹航路船の寄港数が減少すると、日本から輸出される製品は釜山港等外国のハブ港湾にてトランシップした上で目的地へ輸送される比率が上昇する。その結果リードタイムが長期化し、日本の製造業の競争力も低下してしまうリスクが生じる(図表8)。・基幹航路船の寄港数が伸びてきている釜山港は、1990年代から国策によりコンテナバースの拡充や、港湾の入港コスト優遇、港湾周辺地の開発による外国企業誘致を実施し、コンテナ船の呼び込みを図ってきた(図表9、10)。・日本においても、2009年に国際コンテナ戦略港湾政策に基づき阪神港・京浜港を選定して以降、とん税優遇・物流団地整備といった施策をもとに港湾の競争力向上を図ってきた(図表11、12)。基幹航路船の京浜港寄港数増加など一時的な結果は表れてきているものの、定期寄港は実現しておらず、現時点では施策の効果が十分に表れているとは言い難い。(図表8)日本企業のリードタイム短縮に 対するニーズ精密機器メーカーリードタイム短縮は、キャッシュフロー上重要で、1日でも短縮できるならしたい。「速く、安く」を求めており、母船が一番速いので母船にこだわっている。日本から釜山港等を経由すると、釜山港での2、3日の折り返しの日数が余計にかかり、我々のコンペティターである韓国や中国の企業との物流上のイコールフッティングが保障されなくなり、これは致命的。自動車メーカー当社の目指すロジスティクスとしては、3点ある。1つは、需要変動に応えるフレキシブルな物流。2つめは、最短リードタイム・最小コストによる競争力のある物流。3つめは、環境にやさしい物流。生産~販売までのリードタイムを最小にすることがコスト圧縮に最も寄与する。自動車部品メーカー船が大型化してリードタイムが増えるという流れはサプライチェーンの効率化において受け入れがたい。適切な船サイズで、頻度が高く、リードタイムが短い航路が理想。電気機器メーカーキャッシュフロー上、リードタイムが3日短くなれば、効果は大きい。リードタイムが長くなると安全在庫を余分に持とうとなってしまう。(図表9)釡山港の港湾拡張政策の流れ稼働開始バース数埠頭長さ(m)水深(m)釜山港~200620500-1,50011-16釜山新港2006.1~62,00016-172009.2~81,100182010.2~41,15016-172010.3~31,200162012.1~41,40016~2040(予定)26--(図表10)釡山港の入港優遇措置内容・トランシップ(以降T/S)貨物を年間5万TEU以上処理し、T/S貨物量が前年比3%増加かつ過去2年平均値より増加した船社→T/S貨物増加比率に応じて3,000ウォン/TEUの支給・T/S貨物を5,000TEU以上処理した船社→全社に25億ウォンを貨物量に応じて案分し支給・ベトナム、イラン、パナマを経由する船舶で、T/S貨物量が積載能力の20%以上の貨物船→入出港料、接岸料、停泊料100%免除、1,000ウォン/TEUを追加支給・中国東北2省(黒竜江省・吉林省)を起点とする新規航路→入出港料、接岸料、停泊料100%免除、20ft:5万ウォン/TEU、40ft:10万ウォン/TEUを追加支給(図表11)京浜港と外国港湾の 入港コスト比較(2006年時点)100500東京港高雄港釡山港(40フィートコンテナ1個あたりのコスト,東京港=100)ターミナルコスト荷役コスト船舶関係コスト(図表12)とん税及び特別とん税の特例措置一時納付とん税特別とん税合計改正前48円60円108円改正後24円30円54円対象航路欧州航路、北米航路対象船種外貿コンテナ貨物定期船対象税目とん税、特別とん税対象港湾京浜港、阪神港、名古屋港、四日市港(2020年10月1日より施行)(出典)三井住友銀行「国内の港湾の現状と今後の方向性」、釜山広域市公式ウェブサイト、国土交通省「港湾の中長期政策「PORT2030」~参考資料集~」、国土交通省「近年の国際海上コンテナターミナル競争力強化策とその評価」、財務省「令和2年度税制改正の大綱(7/9)」効率化に向けたデジタル標準化プロジェクト・世界全体における海上コンテナ物流網に目を向けると、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う“巣ごもり需要”の拡大などで発生した、港湾混雑・コンテナ船の沖待ちにより、輸送遅延の状態が生じてきた。それによって輸送リードタイムが延びたことで、在庫積み増しや緊急輸送による物流コスト増加が生じている(図表13)。・近年、コンテナ船業界では、業務効率化などを目的にサプライチェーンのIT化に向けた取り組みが国ごとに進行している。例えば、韓国では政府機関も加わり、ブロックチェーンを活用し、IT化を進めており(図表14)、日本でも2021年4月から港湾物流の業務効率化を目指す「港湾関連データ連携基盤(サイバーポート)」の本格稼働を開始している(図表15)。・また、海上コンテナ物流網全体の効率化のために、国際貿易プラットフォームの開発や貨物追跡システムの標準仕様モデルの構築などの、船会社や港湾運営会社等を含めた業界横断的なデジタル標準化プロジェクトが並行して進んでいる(図表16)。今後、日本においては、大手船会社だけでなく、港湾運営に関する業務を一元的に担う港湾運営会社を筆頭に、当該プロジェクトへの参入者が増加することで、海上コンテナ輸送の効率化が進み、日本の港湾のプレゼンス維持が図られることを期待したい。 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。(図表13)Los Angeles/Long Beach港混雑状況待機船の状況ターミナルの状況2021年2月5日約36隻・荷役作業員が不足・本船着岸後荷役開始まで10日間前後を要するケースも散見される・着岸後も荷役作業に通常よりも時間を要する傾向にある2021年2月18日約34隻・引き続き荷役作業員が不足・本船着岸後の荷役作業に通常よりも時間を要する傾向にある・北米全体の大寒波の影響により、米国内陸鉄道の運航スケジュールが大幅に遅延・本船から荷揚げ後、内陸向けの貨物がターミナルで8~15日間滞留するケースも散見される2021年3月5日約28隻・引き続き荷役作業員が不足・本船着岸後の荷役作業に通常よりも時間を要する傾向にある・鉄道の貨車不足により米国内陸向け貨物が西岸ターミナルに滞留する状況が続く・LA/LB港で3週間以上滞留する貨物も散見される2021年4月8日約23隻・本船着岸から出港までに通常よりも時間を要する傾向にある・本船荷役から内陸向け鉄道への接続に最大40日程度を要するケースの発生(図表14)諸外国の港湾のIT化の事例「海運・物流ブロックチェーンコンソーシアム」(韓国)関税庁、海洋水産部、韓国海洋水産開発院、釜山港湾公社、現代商船、KMTC、SM商船、長錦商船、南星海運、KSEANet、KL NET、Cyber Logitec、韓国IBM、サムスンSDSなど30以上の政府機関、民間企業が参加2017年12月現代商船ブロックチェーンを活用した実証試験を中国、インド、中東、欧州航路で完了(図表15)日本のIT化の事例「港湾関連データ連携基盤(サイバーポート)」【現状の情報伝達の課題】・紙情報の伝達による再入力・照合作業の発生・トレーサビリティの不完全性に伴う問合せの発生⇒潜在コスト増加の一因・書類記載内容の不備等の発生⇒渋滞発生の一因【情報連携による効果】・データ連携による再入力・照合作業の削減・トレーサビリティ確保による状況確認の円滑化(図表16)標準化に向けた取り組み「国際貿易プラットフォーム」2018年11月「Global Shipping Business Network(GSBN)」開発に向けてカーゴスマート(中国・香港)と海運9社が覚書を締結2018年12月IBM(米国)と海運最大手マースクが「トレードレンズ」を開発「コンテナ貨物追跡」2019年4月コンテナ船のデジタル化推進を目的とした業界団体「デジタルコンテナシッピング協会(DCSA)」が設立⇒マースクを含む4社が設立メンバーとして加盟2019年5月DSCAに仏船社CMA CGM等5社が新たに参画を発表⇒加盟船社で世界のコンテナ輸送量の7割超を占める2020年1月DSCAが新たなシステム「T&Tスタンダード」の提供を開始(出典)野村総合研究所「新型コロナが国際物流に与えた影響」、国土交通省「港湾・海運を取り巻く近年の状況と変化」、国土交通省「港湾関連データ連携基盤の取り組みについて」各報道を基に作成 ファイナンス 2021 Jul.55コラム 経済トレンド 85連載経済 トレンド

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