ファイナンス 2021年7月号 No.668
54/92

バイデンの今後の政権運営*80*81*82*83上述の通り、トリプルブルーを達成した民主党だが、バイデンの政策実現は依然容易でない。連邦制を根幹とし、中央政府による強権を是としなかった合衆国憲法の建国当初からの精神が今も機能しているともいえる。伝統的に「弱い」権限しか持たない米国大統領制の中で、バイデンは共和党のみならず民主党左派とも折り合いをつけていく必要がある。強硬策に打って出ても議会の協力が得られなければ政策が推し進められないどころか、対立を深めればテクニカルデフォルトや政府機関閉鎖等の危機に晒される可能性もある。バイデンは今後も「結束」(unity)を重視し、強引な議会運営は避けると考えられるが、その中でどこまで「中道リベラル」と呼ばれる自らの政策を実現させ、米国の深刻な分断を解消することができるのか、公私にわたり様々な苦労を重ねてきた歴代最高齢大統領*84の手腕に世界が注目している。*80) 連邦最高裁判事の指名候補を承認する際、単純過半数(51票)の賛成で審理を終え、最終採決を行えるようにするという変更。*81) 賛成54、反対45。共和党議員1名が欠席、民主党議員から3名が造反。*82) 以降、現在でも連邦判事の承認については、過半数の賛成で可能となっている。*83) なお、2013年のオバマ政権時にも、民主党側が「核オプション」を行使し、大統領指名人事についてフィリバスターを過半数で打ち切る規則変更を可決している。*84) バイデンは大統領就任時点で78歳であり、これまで最高齢であったトランプ(70歳)の記録を上回った。筆者略歴庄中 健太(しょうなか けんた)財務省国際局地域協力課国際調整室 課長補佐2013年財務省入省。主計局、高松国税局、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局を経て、北京大学、イェール大学に留学。2020年7月より現職。国際調整室では欧米等先進国の政治・経済情勢の分析、財政当局の二国間協議等を担当。時は遡り2017年4月。ドナルド・トランプ(第45代)はニール・ゴーサッチを最高裁判事に指名した。しかし、当時共和党は上院に52議席しか有しておらず、クローチャー動議に必要な60議席を確保できていなかったため、当該人事案の採決は民主党のフィリバスターによって阻止される公算となった。このため、共和党のミッチ・マコネル院内総務は上院規則そのものを変更*80するための採決を提案し、過半数の賛成で可決された。これにより民主党のフィリバスターは無効化され、ゴーサッチは過半数の賛成*81をもって承認された*82。上院規則の変更によるフィリバスターの阻止については過去にも検討されたことはあるが、議会政治の伝統を破る「禁じ手」であり、その効果の大きさ及び実際に行使されることはないと考えられていることから、核兵器の使用に準えて「核オプション」(nuclear option)と呼ばれる*83。この時、共和党は実際に「核オプション」を用いたことで、超党派合意の精神を放棄し、少数派の権利を奪ったとして糾弾され、党派対立が一層深刻化した。コラム6:「核オプション」50 ファイナンス 2021 Jul.新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第2回) SPOT

元のページ  ../index.html#54

このブックを見る