ファイナンス 2021年7月号 No.668
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れたと言える。議会政治においては、民主党・共和党間のイデオロギー的対立は1970年代以降徐々に激化し、対話や妥協を重視する議会政治からは次第に遠ざかっていった(コラム3参照)。加えて、近年は有権者においても分極化が見られ、時代を経るにつれ一貫したイデオロギー的立場を取る層が増加している(下図参照)*68。このように、米国社会の亀裂は根が深く、人種やジェンダー間における社会の溝は政権交代のみによって容易に埋められるものではない。*69*68) Pew Research Center (October 5, 2017) “The Partisan Divide on Political Values Grows Even Wider”*69) なお、トランプは退任後の演説で、2024年の大統領選挙への出馬を示唆している。トランプvs反トランプ今回の大統領選挙をより実態に即して表せば、それはトランプ対バイデンではなく、トランプと「反トランプ」の戦いであった。カリスマ性がなく新鮮味にも欠けるバイデンに対し、人種、世代、性別を超えて多くの支持が集まったことは、社会の分断を煽り、民主主義の正当性を脅かさんとするトランプ政権が続くことへの危機感ゆえと考えられる。バイデンは本大統領選挙をトランプ政権の信任投票と位置づけ、中道リベラル以外にも、無党派層、共和党穏健派、民主党左派トランプは「米国第一主義」のスローガンの下、保護主義や反不法移民政策を掲げ、グローバリゼーションによって拡大した貧困・格差に不満を持つ白人労働者層を中心に支持を得ていた。公職経験がなく、歯に衣着せぬ物言いをするトランプに人々は狂信し、「トランプ主義」は社会現象にもなった。世界に目を向けると、英国のジョンソン首相、フランスのルペン国民連合党首、ハンガリーのオルバン首相等、大衆の不満を吸い上げ、過激な発言を繰り返し、反グローバリズムを掲げる、「ポピュリスト」とも称される政治家が台頭している。トランプもこうしたグローバリズムに対するアンチテーゼ的な文脈で頭角を現し、白人労働者層の支持を取り込んだ。内政では反不法移民政策として、メキシコとの国境の「壁」の建設を進め、外政ではTPP、パリ協定、イラン核合意といった国際的な枠組みから次々と離脱し、中国に対しては累次の制裁関税を課す等、保護主義・孤立主義を強めていった。増え続ける移民に対する反感や、ポリティカルコレクトネスに対する反発、さらに経済的苦境に立たされた反エスタブリッシュメントの不満の受け皿として、「トランプ」は引き続き待望され得る。今回の大統領選挙ではバイデンが勝利したものの、半数近くの投票者がトランプを支持したことは、今後息の長い現象として「トランプ主義」が米国を席巻し、社会の分断が維持されることを示唆しているかもしれない。米国の根深い格差・分断が解消されない限り、「トランプ」が再び現れる蓋然性は高い*69。コラム5:トランプ現象は一過性か?民主党と共和党のイデオロギー的分極化の進展出典:Pew Research Center48 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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