ファイナンス 2021年7月号 No.668
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選挙の結果は判明せず、郵便投票の開票が進むのを見守る展開となった。トランプは4日未明、早々に勝利宣言を発すると、バイデンも「勝利は明白」と応報した。また、トランプ陣営は投票日を過ぎた票集計の差し止めを求めて立て続けに法廷闘争を仕掛けた。多くの激戦州で接戦が続き、当選判明が遅れたが、開票日から4日後の11月7日、バイデンがペンシルベニア州での勝利を確実にしたとして、CNN等の主要メディアが一斉にバイデン当選を報じた。結果として、民主党が前回選挙で共和党に奪われたラストベルト地域*49を全て奪還し、また従来共和党の地盤であったアリゾナ州やジョージア州等も制した*50ことで、最終的な選挙人獲得数はバイデン306名、トランプ232名となった。2大統領選挙後の出来事大統領選挙後の政権移行についても混迷を極めた。選挙結果が判明した後もトランプは自らの敗北を認めることはなかった*51。トランプは一般投票後も選挙結果を不正として受け入れず、SNS等を通じて選挙の正当性を否定する発言を繰り返した。同時に、トランプ陣営は「不正投票」が行われたと客観的根拠のない主張を展開し、複数の州で選挙結果の無効を求める訴訟を連発した。裁判が長引けば、各州の選挙結果認定及び選挙人指名の期限である12月8日(セーフハーバー期限(注13参照))までに結果が確定せず、同月14日の選挙人集会において正規の選挙人が投票できないリスクも懸念された。しかしながら、こうした裁判はその殆どにおいて「根拠がない」として訴えを棄却され、トランプ陣営が選挙結果を覆すことはできなかった*52。*49) 「錆びた地帯」(Rust Belt)を意味し、ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州を指す。米北部に位置し、かつて製造業が栄えた地域。伝統的には民主党地盤だが、2016年にはトランプが保護主義を掲げ勝利した。2020年は、両陣営とも国内産業を重視した政策を打ち出し、民主党はウィスコンシン州(ミルウォーキー)にて全国大会を実施し、共和党はトランプがペンシルベニア州で遊説を繰り返す等、本地域を最重要地域と位置付けていた。*50) アリゾナ州、ジョージア州、ウィスコンシン州では得票率差1ポイント未満の僅差でバイデンが勝利した。(出典:United States Election Project)*51) 1896年に民主党候補のウィリアム・ジェニング・ブライアンが、勝利を確実にした共和党候補のウィリアム・マッキンリー(第25代)に敗北を認める電報を発したのが敗北宣言の始まりとされる。以降、敗北宣言の発出は大統領選挙の勝利を確定させる重要なプロセスとなり、また、敗者が潔く負けを認め、国の団結のために勝者を讃える姿は、多くの国民の記憶に刻まれてきた。トランプは124年間に亘る米国民主主義の伝統を無視し、敗北宣言を拒否したことで、円滑な権力の移行を不安にさせた。*52) 例えば、共和党のテキサス州司法長官は、激戦4州(ジョージア州、ミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州)の選挙結果について不正があったとして無効化を求める訴訟を行い、トランプや共和党連邦下院議員、18州の司法長官らがこれに追随した。しかし、12月11日、連邦最高裁はこの訴えを退ける決定を下した。*53) 2021年1月3日正午から2023年1月3日正午まで。*54) 各州の集計結果は既に確定していて、「不誠実な選挙人」は現れず、バイデンが306名、トランプが232名の選挙人を獲得していた。*55) 合同本会議にて選挙結果に異議を申し立てることを表明していた共和党の上下院議員百数十名は、この事件を受けて異議を取り下げた。また、トランプ政権の閣僚(デボス教育長官、チャオ運輸長官、ウルフ国土安保長官代行)等、政権関係者の辞任が相次いだ。2021年1月6日 議事堂襲撃事件年が明けて2021年1月6日、選挙結果に基づいた新たな議席をもって、連邦議会(第117回合衆国議会*53)が開始された。この日は上院議長であるペンス副大統領を議長とする上下両院合同本会議が開催され、選挙人による投票の集計を行い、次期大統領として民主党候補のバイデンを公式に認定することになっていた*54。他方、トランプはSNSで「副大統領は不正に選ばれた選挙人を拒否する権限を持つ」と発言する等、ペンスが結果認定を取り消すか、結果を変更すべく各州に差し戻すよう要求していた。この日、トランプはホワイトハウス付近で行われた支持者らによる抗議集会に参加し、「選挙は盗まれた」「我々は戦う」等と演説をして支持者らを扇動し、選挙人投票の集計が行われている連邦議会議事堂へ向かうよう呼びかけた。暴徒化した一部支持者らは議事堂内に侵入し、ペンスによる選挙結果認定のための議事を妨害した。結果として、警察官を含む5名が死亡するという前代未聞の暴動に発展した*55。連邦議事堂に侵入したトランプ大統領の支持者たち(出典:AFP)2021年1月13日 トランプ大統領の弾劾訴追議事堂襲撃事件を受けて、1月12日、連邦議会下46 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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