ファイナンス 2021年7月号 No.668
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りとして保守派のバレットが承認*25されれば、その構成は保守派6名・リベラル派3名となり、司法の保守化が鮮明となる。特に、11月には国民保険制度改革法(オバマケア)存続の是非を巡る審理が予定されていたことから、民主党は保守派のバレットがこれを違憲と判断することを警戒し、新たな大統領の下で民意を反映した最高裁判事が指名されるべきだと主張した。トランプは今回の大統領選が2000年選挙のように最高裁によって決着する(コラム2参照)可能性に*25) 最高裁判事の就任には、連邦議会上院の過半数による承認が必要。なお、米国では条約や人事の承認権は上院のみに付与されている。(合衆国憲法第2条第2項には「大統領は、上院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する。但し、この場合には、上院の出席議員の3分の2の賛成を要する。大統領は、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国官吏を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する」と定められている。)*26) ただし、日本の政党政治と異なり、党議拘束はなく、恒常的な綱領や党首も存在しない。*27) なお、共和党の前身はホイッグ党と呼ばれ、同党出身の大統領としては、1853年、日本に「黒船」を派遣したミラード・フィルモア(第12代)らがいる。*28) 愛称はAbe(エイブ)。2015年4月、安倍総理(当時)は米国連邦議会で演説を行った際に「私の苗字ですが、「エイブ」ではありません。アメリカの方に時たまそう呼ばれると、悪い気はしません」とジョークを言い、議場の笑いを誘った。*29) 民主党は中道路線のビル・クリントン(第42代)からリベラル路線のバラク・オバマ(第44代)を経て左傾化し、共和党は保守路線のドナルド・レーガン(第40代)、ジョージ・ブッシュ(第43代)らを経て右傾化した。*30) ただし、民主党支持者は都市部に集中する傾向にあることから、人口増加による共和党州から民主党州への転換には直結しにくいことには留意が必要。も触れ、選挙前の承認に拘った。結果として、10月26日、連邦議会上院(共和党多数)は、賛成52、反対48でバレットの連邦最高裁判事就任を承認した。*26*27*28*29*302020年9月29日 「史上最悪の討論会」9月29日に実施された第1回テレビ討論会は、トランプ政権の新型コロナ対策や、人種問題、最高裁判事の任命問題等がテーマとされたが、トランプがバイデ米国は現在、民主党(Democratic Party)と共和党(Republican Party)の二大政党制である*26。民主党のイメージカラーは青で、ロバをシンボルとする(注48参照)のに対し、共和党は赤で、象をシンボルとする(下図参照)。また、共和党にはGOP(Grand Old Party)という略称があるが、“Grand Old”というわりに、歴史的には民主党より新しい*27。民主党は1828年に設立され、アンドリュー・ジャクソン(第7代)を支持し、奴隷制の維持を望む西部・南部の独立自営農民がそのように名乗り始めたのが始まりとされる。それに対し、共和党は奴隷制の廃止を理念に掲げ、北部の資本家を支持基盤として1854年に結党した。共和党が輩出した最初の大統領は、南北戦争を指揮し奴隷解放宣言を行ったエイブラハム・リンカーン*28(第15代)である。この点、現在の民主党・共和党の支持基盤やイデオロギーとは異なっている。本来、南部の白人を中心とする保守政党であった民主党は、1929年の世界恐慌を契機に、フランクリン・ルーズベルト(第32代)が「ニューディール」と呼ばれる経済政策を打ち出す。ニューディールによって政府が社会経済に積極的に介入し、労働者の権利保護や差別撤廃等のリベラル的政策を推進した結果、貧困層や人種的マイノリティに支持が広がっていった。対して、共和党はドワイト・アイゼンハワー(第34代)以降、かつての民主党支持基盤である南部の白人保守層へ働きかけ、中絶の禁止等を支持するオールドライト・宗教右派を取り込んでいったことで、従来の支持基盤が逆転していった。それでも、戦後しばらくは両党ともに保守からリベラルまで幅広い勢力が混在しており、超党派での協働が多く見られた。しかし、1970年代以降、民主党はリベラル、共和党は保守として分極化が進行*29し、イデオロギー的な対立を深めていった。また、人口動態に着目すると、米国における白人人口は今世紀半ばには50%を下回るとされる。民主党支持基盤である人種的マイノリティは、白人に比して人口増加ペースが著しいことや、若年層ほどリベラル志向が強いことから、今後民主党の支持が拡大していくことが示唆される*30。民主党のロバ、共和党の象コラム3:ロバと象の変遷 ファイナンス 2021 Jul.43新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第2回) SPOT

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