ファイナンス 2021年7月号 No.668
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開始日等についても州毎に異なっていた。加えて、手作業で封筒を開け署名照合を行うことで、結果確定が遅れる可能性や、無効と判断された票をめぐって訴訟が相次ぎ、結果確定までの混乱の中でトランプが一方的に勝利宣言するのではないか*17との憶測も飛び交った。懸念2:大統領選日程延期への言及2020年7月末、トランプは郵便投票で不正が起こるとの疑念から、テレビ番組や自身のSNSで大統領選の延期を示唆するメッセージを発信した(下図参照)。2020年7月30日のトランプのツイート。郵便投票の導入により、「2020年(の大統領選挙)は史上最も不正確で詐欺的な選挙になる」とし、大統領選挙の日程延期を示唆している。(出典:Twitter ※現在トランプのアカウントは削除されている)合衆国憲法上、大統領の任期は4年(2期まで*18)と定められており、連邦法上、大統領選挙日は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日*19」と定められている。また、大統領には選挙の延期に関する権限はなく、これを実現するには法改正を要するが、議会は下院を民主党に奪われている上に、トランプの根拠のない妄言には共和党内からも反発が強く、実現するべくもなかった*20。*17) 民主党支持層の多くは郵便投票を用い、共和党支持層の多くは直接投票を利用することから、開票序盤は郵便投票(バイデン票)のカウントが遅れ、トランプが自身の優勢の間に勝利宣言を出し、その後郵便投票の集計を妨害するのではないかとの懸念があった。*18) 合衆国憲法修正第22条第1項には「何人も、大統領の職に2回を超えて選出されることはできない」と定められている。なお、2期8年を超えて大統領を務めたのは、有事(第二次世界大戦)を理由に4選を果たしたフランクリン・ルーズベルト(第32代)のみ。ジョージ・ワシントン(初代)が3選を固辞したという経緯からそれまでも大統領を務めるのは2期までが慣例となっていたが、ルーズベルトの死後憲法改正が批准され、明文化された(1951年)。*19) 合衆国法典(3 U.S. Code §1)には「大統領および副大統領の選挙人は、各州において、大統領および副大統領の選挙から4年目の11月の第1月曜日の翌日の火曜日に任命される」と定められている。この選挙期日が定められた1845年当時、農業に従事する国民が多かったことから、収穫の終了している11月に選挙期日を設定したとされる。火曜日である理由は、交通機関が発達していなかった当時、厳格に休息日とされていた日曜日と選挙日の間に家から投票所への十分な移動時間を確保するためであった。(出典:CRS(米国議会調査局))*20) 大統領選挙が延期された例は米建国史上一度もなく、トランプの軽率な発言は共和党の重鎮や側近からも批判を浴びた。*21) 二大政党以外からも、リバタリアン党のジョー・ジョンゲンセン(得票率1.18%)や人気ラッパーのカニエ・ウエスト(同0.04%)ら36人の泡沫候補も立候補した。*22) 父親がジャマイカ系、母親がインド系。なお、女性の副大統領候補としては、2008年に共和党のサラ・ペイリンがジョン・マケイン大統領候補から指名を受けている。*23) ギンズバーグはRuth Bader Ginsburgの頭文字をとってRBGの愛称で広く親しまれており、2018年にはドキュメンタリー映画も制作されている。*24) ギンズバーグは1993年、クリントン(民主党)によって60歳で連邦最高裁判事に指名され、87歳で死去するまで27年間に亘りその任に当たった。懸念3:「居座り説」2020年7月末、トランプはテレビ番組で大統領選挙の結果を受け入れない可能性を問われると、「イエスともノーとも言えない」と含みを持たせた回答をしたことから、選挙に敗北しても結果を「不正」として受け入れず、大統領の座から降りないのではないかという「居座り説」がにわかに取り沙汰された。トランプ陣営が選挙結果に納得しない場合、国家安全保障上の「緊急手段」を理由に選挙結果を調査する等、「選挙を盗む」のではないかとの噂が囁かれた。2020年8月下旬 民主党・共和党の全国大会選挙戦は同年8月下旬に行われた民主党・共和党それぞれの全国大会を皮切りに本格化した。民主党はバイデンを大統領候補、カマラ・ハリスを副大統領候補として正式に指名し、共和党は現職のトランプ大統領、マイク・ペンス副大統領をそれぞれ指名した*21。特に、「Black Lives Matter」(BLM)運動に見られるような人権問題に対する関心が高まっていたこともあり、女性で有色人種*22のハリスの指名は注目を集めた。2020年9月18日 ギンズバーグ連邦最高裁判事の死去9月18日、ルース・ギンズバーグ*23連邦最高裁判事が死去した*24。米国の最高裁判事は終身制であり、欠員が生じた場合は大統領が後継を指名することとなっているため、時の政権が数十年単位で影響力を残すことができる。翌週、トランプは新たな判事としてエイミー・バレット(当時48歳)を指名した。当時、最高裁判事の構成は保守派5名・リベラル派4名(計9名)であったが、リベラル派のギンズバーグの代わ42 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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