ファイナンス 2021年7月号 No.668
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2021年1月20日、現職大統領が欠席という異例の事態の中、バイデン新大統領の就任式が行われた。型破りな言動を繰り返すトランプ大統領、コロナパンデミックを受けた郵便投票の増加、前代未聞の議事堂襲撃事件―2020年の米国大統領選挙はまさに波乱尽くしであった。両候補の一挙手一投足に世界中が注目する中、米国の政治・経済情勢の分析を主要業務の一とする財務省国際調整室もこの煽りを免れず、種々シミュレーションを行いながら、日々新たな資料を作成・更新していた。今回はそんな波乱万丈の2020年米国大統領選挙を振り返りつつ、米国の選挙制度について概説し、当該選挙を通じて改めて露呈した米国社会の深刻な分断についても敷衍していきたい*1。*1) 本稿における意見は筆者個人の見解であり、所属する組織を代表するものではない。*2) 下馬評を覆し、当初泡沫候補と目されていたトランプが、本命候補と見られていたクリントンを制し、大統領選挙に勝利した。*3) 上院は人口に関係なく各州2議席ずつ、下院は人口に比例して1議席以上の定数が割り当てられる。*4) コロンビア特別区についても人口に比例した選挙人が割り当てられるが、選挙人数が最も少ない州(3名)を超えないこととなっているため。なお、コロンビア特別区は下院議員を1名輩出しているが、プエルトリコ等の海外領土選出議員と同様に議決権を有さず、定数の435には含まれない。*5) 得票数に応じて選挙人数を比例配分するメーン州及びネブラスカ州を除く。*6) 候補毎に当該候補に投票することになっている選挙人団が存在し、勝利した候補の選挙人団が選挙人投票で投票することになる。ただし、自身が投票すべき候補に投票しない「不誠実な選挙人」(faithless voter)が生じる可能性もある。12020年米国大統領選挙の展開2020年の米国大統領選挙では、共和党の現職大統領ドナルド・トランプと民主党オバマ政権時の副大統領ジョー・バイデンが熾烈な戦いを繰り広げた。共和党内ではトランプの影響力は絶大であり、しばしば「トランプ党」とも呼ばれていた。対して民主党は一枚岩ではなく、実際、予備選挙においても、大統領候補が一本化されるまで時間を要した。これは米国社会の分断の根深さと、バイデン当選後の民主党内の亀裂を予兆していた。*2 *3 *4 *5 *6今回の大統領選挙において、トランプは、SNSを活用して虚実混交の放言を重ね、それは民主主義のレジティマシーすら脅かしかねない様々な危機を生じさせた。国際局地域協力課国際調整室  庄中 健太新米課長補佐の目から見る激動の国際情勢(第2回)―2020年米国大統領選挙の波乱と米国社会の分断―時は遡り2016年11月9日未明。第58回米国大統領選挙の結果、民主党候補のヒラリー・クリントンは史上最多得票を獲得し、共和党候補のトランプを300万票近く上回った。―しかし、勝ったのはトランプであった*2。いわゆる米国大統領選挙(一般投票)は間接選挙であり、大統領を選ぶ選挙ではなく、各州に割り当てられた「選挙人」を選ぶ選挙であることは広く知られている。選挙人の総数は538名であり、これは連邦議会議員の定数(上院100、下院435)*3の合計(535)に3を足した数に一致する。各州の連邦議会議員(上院+下院)の選出数を選挙人の数として各州に割り当てることになっているからである。例えば、全米で最大の人口を有するカリフォルニア州は、上院議員2名、下院議員53名、計55名の連邦議会議員を有しているため、選挙人の数も55名となる。では3はどこから来たかと言うと、コロンビア特別区(ワシントンDC)で、3名の選挙人を有している*4。この538名の選挙人のうち過半数、つまり270名の票を獲得した者が大統領に選ばれることになる。選挙人は原則として勝者総取り(winner-take-all)*5方式であり、例えば、ある州において1票でもA候補への得票が多ければ、当該州の選挙人は全員A候補に投票することになる*6。総得票数で負けているトランプが勝利したのは、まさにこの勝者総取り方式の中において、選挙人獲得数でクリントンを上回ったためである。コラム1:大統領選挙≠大統領を選ぶ選挙40 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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