ファイナンス 2021年7月号 No.668
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第2部  日本における少子化の進展の背景と求められる対応■第5章「 少子化の日本的特徴 不安定収入男性の結婚難」山田昌弘(中央大学文学部教授)「不安定収入の男性」がカップルを形成し、子どもを育てることができる条件を整えることに結びつく少子化対策でなければ、日本の出生率は上がらない少子化問題には「不安定収入の男性」の結婚難がある。1990年代以降急増したことが少子化の主因で、この層の多くが結婚して子どもを産み育てない限り、日本の少子化の解消は望めない。欧米では収入が不安定な男性でも女性に選ばれる4つの慣習・意識がある(図表11)。しかし日本は異なり、(1)成人しても親と同居、(2)夫の収入への依存が許容、(3)恋愛感情重視意識が低い、(4)学費の親負担、のため、結婚相手に相当の収入を求める女性が大きく減らない。「結婚したら夫が稼ぐ」という家族意識が強く残っていることが一因となっている。少子化を解消するためには、若年層の経済的安定を図ると共に、多様な家族形態を促進することが必要である。■第6章「 合計特殊出生率と未婚率 ―都道府県データを用いた分析―」小野稔(財務総研副所長)・瀬領大輔(財務総研研究員)若年人口が転出している地域は低年収帯割合が高く、転入している地域は未婚率が高い晩婚化の進行や未婚率の上昇が合計特殊出生率の低下に影響し、晩婚化と共に出産年齢の高齢化が進行している。男性就業者(30~34歳)は、年収帯が高いほど未婚率が低くなる傾向がある(図表12)。地域間比較では、転入超過の程度が大きいほど未婚率の水準は高い。これらは直近10年程度大きな変化はみられない。女性(30~34歳)は、仕事を主とする就業者の構成比が大きく上昇してり、未婚率は2005年前後をピークに、それ以後低下している(図表13左側)。女性既婚者をみると、家事を主とする女性就業者や専業主婦が多く含まれる非労働力(家事)の構成比は、おおむね低下傾向にある(図表13右側)。図表13 女性(30~34歳)の労働力状態と未婚率の推移0706050403020101990199520002005201020151990199520002005201020151990199520002005201020151990199520002005201020152000200520102015200020052010201520002005201020152000200520102015(%)第1群第2群未婚率構成比第3群就業者(主に仕事)第4群第1群第2群第3群非労働力(家事)第4群(注)棒グラフは30~34歳女性人口(労働力状態不詳の者を除く)に占めるそれぞれの割合を示している。折れ線グラフはそれぞれの未婚率(配偶関係不詳の者を除く)を示している。070605040302010(%)図表12 男性就業者(30~34歳)未婚率(2017年)200万円未満200~299万円300~399万円400~499万円500~699万円700万円以上0100908070605040302010(%)第1群第1群:大幅な転入超過(東京都)第2群:転入超過(埼玉、大阪、京都など)第3群:転出超過(北海道、富山、奈良、香川など)第4群:大幅な転出超過(青森、鳥取、徳島、鹿児島など)第2群第3群第4群全国図表11  欧米にある4つの慣習・意識(「収入不安定男性」でも 女性に選ばれる理由)(1)子は成人したら親から独立して生活するという慣習(若者の親からの自立志向)(2)仕事は(女性の)自己実現であるという意識(仕事=自己実現意識)(3)恋愛感情(ロマンティック・ラブ)を重視する意識(恋愛至上主義)(4)親の子育て責任は成人までという慣習(成人=子育て終了という慣習)36 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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