ファイナンス 2021年7月号 No.668
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■第3章「 東アジアの低出生力」 鈴木透(ソウル大学保健大学院客員教授)出生力低下の度合は、「急速に変化する社会経済システム」と「ゆっくりとしか変化しない家族システム」の葛藤に依存先進国の出生力はいずれも置換水準を下回っているが、北西欧と英語圏の出生率は比較的高く、南欧・東欧・日本の出生率はそれより低く、儒教圏(韓国・台湾)の出生力は極端に低い。儒教圏社会では、家族外のジェンダー平等(教育・職業・政治的参加)は急速に改善されたが、家族内のジェンダー平等(夫婦間の役割分担、子の性別による親の態度・期待の差異)は急激に変化していない(図表8)。「孝」重視の儒教家族は親子紐帯が強く、子の経済的自立は遅く、教育熱が高い。ホワイトカラー志向の競争社会が結婚・出産を阻害している。婚外出生も少ない。特に韓国では、若年層の失業率上昇や収入減が出生力低下に影響している。図表8 近代化直前の東アジアの家族パターン中国朝鮮日本イデオロギー孝重視孝重視忠重視家族以外への信頼低低高女性の地位厳格な隔離厳格な隔離比較的平等親族構造父系制父系制双系制又は弱い父系制結婚同姓不婚同姓不婚内婚養子縁組異姓不養、世代重視異姓不養、世代重視非血縁可、世代無視集団の原理資格資格場相続息子間での均分相続長男優待相続単独相続世帯構造合同家族又は親の輪住直系家族直系家族移動性向高高低■第4章「 少子化対策のエビデンス」山口慎太郎(東京大学経済学研究科教授)「家族関係社会支出」や「男性の家事・育児負担割合」が高いほど、出生率も高い「家族関係社会支出」と「男性の家事・育児負担割合」は、出生率の間に緩やかな正の相関関係がある(図表9、図表10)。家庭内において男女平等化が進むことが、少子化対策として有効(「ジェンダー平等は出生率向上につながる」は経済学的な裏付け)である。出生率の向上には、女性の子育て負担を軽減させる政策(育児休業政策、保育に対する補助金等)は効果的である。一方、妻の負担軽減に焦点を当てていない児童手当や世帯に対する税制優遇措置は、出生率の向上に十分な効果が発揮できない。図表9 家族関係社会支出が高い国ほど出生率も高い⑨(注)OECD加盟国のうち、World Bank Country and Lending Groups の「High-Income Economies」に分類される32カ国に絞っている。図表10 男性の家事・育児負担割合が高い国ほど出生率も高い⑨⑩(注)合計特殊出生率は国連「UNdata」、女性が評価した男性の家事・育児負担割合は「国際社会調査プログラム」2002年調査より。 ファイナンス 2021 Jul.35「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」の概要について SPOT

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