ファイナンス 2021年7月号 No.668
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日本では、未婚率が高止まりする中、20歳代での出生率が低下しており、完結出生児数も減少傾向にある(図表1)。日本だけではなく、東アジアでは少子化が顕著に進んでいる(図表2)。出生率の低下速度の国・地域による違いの背景には、(1)子どもを持つことに対する意識、(2)男女間の役割分担、(3)産業構造など経済的環境の変化、(4)政府による政策についての違いがある。少子化が進む国・地域では、経済環境の変化の速度と、社会意識や家族の役割の変化の速度が大きく乖離することによって、子どもを持つ選択に、大きな影響が生じてきたと考えられる(図表3)。第1部 少子化と経済・社会の構造変化の関係■第1章「 1970年代以降の人口政策とその結果 ―アジアにおけるケアの脱家族化を中心に」落合恵美子(京都大学文学研究科教授)少子化を改善するためには、保育・家族政策に加え、教育・住宅・医療・就労支援・男女平等も含めた「いのちの再生産の脱家族化」が必要「近代家族」(同型的で小さな家族)の女性成員が「ケア」を担い、社会の中で「人の生産」(再生産)を一手に引き受ける体制(「いのちの再生産」を家族に丸投げするシステム)は当たり前ではなかった。ケアに関わる4つのセクター(国家、市場、コミュニティ、家族・親族)が連携して、いのちの再生産を支えていることを示す「ケアダイアモンド」は、社会等によって異なる家族化と脱家族化によりバランスが変わる(図表4、図表5)。アジアでの子どものケアをめぐる社会的ネットワークを比較すると、日本は育児ネットワークが貧しい。女性の就業率には、「ケアサービスの脱家族化」が影響する。出生率には、「ケア費用の脱家族化」が影響する。しかし、東アジア社会では、図表1 日本の出生数の推移18991902190519081911191419171920192319261929193219351938194119471950195319561959196219651968197119741977198019831986198919921995199820012004200720102013201620192022202520282031203420372040204320462049205220552058206120640063005250420031502100150(万人)出生児数(人口動態統計)出生率(日本の将来推計人口中位)人口置換水準出生児数(日本の将来推計人口中位)出生率(人口動態統計)2020年出生数:84万832人(前年比▲2万4,407人)合計特殊出生率:1.34(前年1.36)図表3 経済環境と社会意識・家族の役割の変化歴史的な視点国際比較の視点家族をめぐる文化・規範・意識の変化社会経済システムの変化(経済発展、グローバル化等)両者の乖離による「家族」の役割の変容と「少子化」政策による対応の必要性図表2 日本、韓国、台湾、タイにおける出生数の動向1950-19551960-19651970-19751980-19851990-19952000-20052010-20152020-20252030-20352040-20452050-20552060-20652070-20752080-20852090-2095012,00010,0008,0006,0004,0002,000(千人)日本韓国タイ台湾 ファイナンス 2021 Jul.33「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」の概要について SPOT

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