ファイナンス 2021年7月号 No.668
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「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」の概要について1研究会の狙い財務総合政策研究所では、2020~2021年にかけて「人口動態と経済・社会の変化に関する研究会」を開催した。本研究会は、これまでの日本及び他の東アジアの国・地域における人口構造の変化、とりわけ出生率の低下と出生数の減少が続くなか、少子化は何によってもたらされてきたのか、経済・社会の変化は少子化にどのような影響を与えてきたのか、という問題意識の下で、研究・調査を行った。こうした問題意識を踏まえ、本研究会では、以下の取り組みを行った。(1)東アジアの国・地域も少子化に直面していることから、欧米とは異なる地域的な特徴を捉えることを通じて出生率低下の背景にある共通点を探る取り組みを行った。(2)我々を取り巻く社会経済システムは急激に変化しているが、「家族」に関する文化的・歴史的な規範意識は、社会経済システムほどの速さで変化しないということが、どのようなひずみを生みだしているのかを明らかにしようとした。(3)未婚者の意識により接近するため、家族社会学や人口学、経済学など、社会科学の幅広い知見を得るために、多くの分野の有識者の方々にご参加いただいた。座長は、家族社会学者の山田昌弘先生(中央大学文学部教授)にお引き受けいただき、研究会委員として、家族社会学者の落合恵美子先生(京都大学文学研究科教授)、人口学者の鈴木透先生(ソウル大学保健大学院客員教授)、経済学者の山口慎太郎先生(東京大学経済学研究科教授)及び山田久氏(株式会社日本総合研究所副理事長・主席研究員)に参加いただいた。研究会では、財務総研からも複数の研究成果を報告した。なお、本研究会は新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策として全回オンライン形式で開催し、遠方の先生にも委員としてご参加いただくことができた。本稿では、本研究会の報告書の内容について、それぞれの章の概要を報告する。なお、報告書で用いられている執筆者の肩書はすべて2021年3月末時点である。2各章紹介本報告書では、大きく2部に分かれており、第1部では「少子化と経済・社会の構造変化の関係」、第2部では「日本における少子化の進展の背景と求められる対応」に関する内容となっている。以下では、各章の主張のエッセンスを示した上で、その主張をサポートする調査分析の内容を紹介する。なお、各図表については、それぞれの章の執筆者によって作成された各章及びその概要から抜粋しており、データの詳細な出所については、報告書の各章の記述を参照していただきたい。■序章「 少子化と経済社会の構造変化はどのように関係しているか」上田淳二(財務総研総務研究部長)少子化の背景には、子育てを担ってきた「家族」のあり方や意識の変化があり、人々の意識や行動の変化とそれを促す政策が必要*1) 執筆者の肩書は2021年6月末現在。財務総合政策研究所総務研究部*1 前総括主任研究官 奥 愛研究企画係長 中島 安規/研究企画係員 戸出 紗也香32 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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