ファイナンス 2021年7月号 No.668
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造委託契約を結んで量産しているワクチンの中には入手可能なものもあり、その一部は既にアジア・太平洋地域の途上国に届き始めているものある。しかし、それらがADBの基準を満たすのがいつになるかはわからない。時を同じくして、さらに衝撃的なニュースが飛び込んできた*16。変異種の蔓延により巨大且つ急速な第二派に見舞われつつあったインドが、国内の予防接種プログラムを最優先にするべく、ワクチンの海外輸出を当面の間、停止するというのだ。インドはSII(Serum Institute of India)という世界最大のワクチン製造企業を擁する。SIIはアストラゼネカ・オックスフォード大学が共同開発したワクチンを「COVISHIELD」というブランド名で生産しているほか、米NOVAVAX社が開発したワクチンを「COVAVAX」という銘柄で生産している。SII*17によるCOVID19ワクチンの日毎生産量は2021年3月時点で240万個。そしてCOVAXが中・低所得国のために共同調達する予定のワクチンの8割はSII製という計画なのだ。米・英の製薬会社が製造するワクチンは先進国が買い占めている状況の中、インド製のワクチンが輸出禁止というこ*16) 出典:Financial Times March 25, 2021 “India blocks vaccine exports in blow to dozens of nations”*17) SIIは2021年末まではCOVAXを含む国外への供給は見合わせざるを得ないと表明している(出典:CNN May 26, 2021“The world's biggest vaccine maker is stalling on exports. That's a problem for the planet's most vulnerable”)*18) WHOのPrequalicationを得るには必要書類が全て提出されてから審査終了まで平時でも最低1年を要するが、一度認証されれば3年間有効。WHOのEUL(Emergency Use List)は、書類提出から1~2カ月程度で審査が完了する。但し、引き続きPrequalicationを得るための審査を受け続ける必要があり、また、Prequalicationが得られなければ1年で失効する。*19) 出典:WHO “Product eligibility under the COVAX Facility”とになれば中・低所得国が早期にワクチンを入手できる可能性は潰えてしまう。(3)見直されるワクチン適格基準採るべき道は一つしかないように思われた。APVAXのワクチン適格基準の見直しだ。既存の基準を満たすワクチンをめぐる巨大な需給ギャップに加えて、APVAXが第二の基準として挙げていた「WHOによる事前認証(Prequalication*18)」が、当初の想定以上に長い時間がかかることが分かってきた。また、2020年末にWHOがSRAとして認めていた医薬品規制・認可当局の数を当初の35から6-オーストラリア、カナダ、EU、スイス、アメリカ、イギリスのみ―へと減らした*19ことで、APVAXの第三の基準が当初の想定よりも厳しいものになってしまった点も考慮に入れる必要があった。さらに、既存の基準が抱えていた曖昧さ―例えば、(1)SRAによる「認可」とは、通常の認可のみを指すのか、それとも「緊急使用認可」も含むのか、(2)ワクチン自体の認可と、それを作る業者や工場の認可を同一視するべきか、し2021年中の各社別COVID-19ワクチン製造能力と予約済みワクチン数の比較(2021年3月末現在) ファイナンス 2021 Jul.27パンデミック下の途上国支援SPOT

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