ファイナンス 2021年7月号 No.668
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求めている中、フィリピンがワクチンを入手できる目途は当面立たなくなってしまう。ところが「物品調達の前払金に充てることのできる政府予算は、契約額全体の15%まで」との国内法*13の制約があることから、先方の要請に応えるには法改正が必要となる。法改正にはどんなに努力しても数カ月を要する。とても間に合わない。パンデミック発生以来、フィリピン政府と並走を続けてきたラメッシュ・スブラマニアム局長率いるADB東南アジア局のスタッフを中心とするプロジェクトチームのメンバーは、フィリピン政府職員とともに悩んだ。彼らが(夏休みに続き)年末年始も返上で検討・協議を続けた末にたどり着いた解決策は「二段階アプローチ」だった。即ち、上記国内法の制約は政府予算だけに係るものであり、開発パートナーから借り入れた資金は対象外であること、そして2020年8月に承認された1億2,500万ドルのフィリピン向け保健セクター向けのプロジェクトが既に実施段階に入っていることに着目、進行中のプロジェクトの内容を変更して、その一部をワクチン契約締結に必要な前払い金に充てられるようにする。さらに、世銀と協議して、前払い金支払いへの貢献を両行で折半する。これで製薬会社が求める期日にギリギリ間に合う。こうした経緯を経て2月1日に理事会に提案・承認されたADBによるCOVID19ワクチン調達向けプロジェクトの第一号は、進行中プロジェクトの一部変更による2,500万ドルの融資*14という想定外の形となった。この間、ADBのプロジェクトチームとフィリピン政府は後続の4億ドルの本体融資の準備を続け3月12日に理事会承認*15に至った。この第二号ローンについてはAIIB(アジアインフラ投資銀行)からの3億ドルの協調融資を動員、また世銀も3月11日には5億ドルの融資を通じたフィリピン向けワクチン調達支援について理事会からの合意を取り付けた。ようやくフィリピン政府は、人口の50%に対して二回分の予防接種をするために必要な資金を確保できたのだ。しかし、ワクチンをめぐるグローバル狂騒曲がピッチを高めていく中で、ADBスタッフの眠れない夜はさら*13) Republic Act No. 9184:“the Government Procurement Reform Act, 2009 (An Act Providing for the Modernization, Standardization, and Regulation of the Procurement Activities of the Government and for Other Purpose)”*14) 出典:ADB News Release | 1 February 2021, ADB Provides $25 Million to Help Philippines Procure COVID-19 Vaccines*15) 出典:ADB News Release | 12 March 2021, $400 Million ADB Loan to Help the Philippines Purchase COVID-19 Vaccinesに続くことになる。(2)売り切れるワクチン3月末、フィリピンに続きインドネシア向けワクチン支援融資4億5千万ドルの理事会承認が得られたにもかかわらず、総裁室に設けられた大画面に映し出されるADB保健チーム、法務室、戦略・政策・パートナーシップ局のスタッフの表情は一様に冴えない。ADBに対してはフィリピン、インドネシアに続き15か国から、合計32億ドルものワクチン支援ファイナンスの要請が寄せられている。歓迎すべき動きだが、肝心のワクチンが殆ど売り切れているのだ。次ページの図が示す通り、2021年3月時点で、ADBがAPVAXの枠組みの中で提示した3つの適格基準のいずれかを満たすワクチンはアストラゼネカ・オックスフォード大学(英)、ファイザー(米)・バイオテック(独)、ジョンソン&ジョンソン(米)、モデルナ(米)がそれぞれ開発した4つのワクチンのみ。そしてそれらは既に、2021年中に生産可能なものすべて「売り切れ」という状況だ。インド、中国等の企業が開発中、あるいは欧米の製薬会社と製各国が国民一人当たりで確保している COVID19ワクチンの状況(2021年1月現在)26 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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