ファイナンス 2021年7月号 No.668
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めくくりには、パンデミック下でのスタッフの献身、理事会メンバー同士の貢献をたたえるべく、恒例の乾杯が総裁と各国理事との間で交わされた。ただ、互いがスクリーンに向かって、各々の居場所から杯を傾けた点は例年と大いに異なる風景であった。兎も角、ADB史上初めての挑戦であるワクチン支援の枠組み作りには一定の目途がついた。しかし、クリスマスも控えてほっと一息…つく暇をパンデミックは与えてはくれない。ADBの地域局のスタッフ、そして保健セクターのメンバーは、理事会に承認された枠組みの中で、それぞれのカウンターパートである途上国政府や他の国際機関と協働しながら、クリスマス、年末年始返上で、ワクチン支援の個別プロジェクトの組成を急ピッチで進めていった。そして、その過程で、浅川総裁率いるADBのチームは、APVAXの策定プロセスで経験した以上の困難と不確実性に直面していくことになる。*113各国向けワクチン支援プロジェクトの準備と立ちはだかる壁(1)壁を乗り越える工夫とパートナーシップAPVAXの枠組み策定作業が佳境を迎えていた2020年12月初旬、フィリピン政府のCOVID19対応タスクフォース・ワクチン部会のメンバーは頭を抱えてい*11) COVAXを通じて調達されるワクチンには、WHOの事前認証を受けたもの、厳格な規制当局(Stringent Regulatory Authority:SRA)による認可されたもの、あるいはWHOの緊急使用リストへの掲載がされたものが含まれる。*12) COVAXは、2021年2月24日にアストラ・ゼネカ製のワクチンをガーナに届けたのを皮切りに、同年5月末までに127か国に対して7,700万回分のワクチンを提供している。フィリピンには2021年3月4日にアストラ・ゼネカ製ワクチン約255万回分、ファイザー・BioNtech製ワクチン約19万回分が届いた(出典:Gavi)。た。2021年中には医療従事者や高齢者等を含む人口の23%(約2,500万人)、2023年中には全人口の予防接種完了を目指すワクチン分配プランは、WHOのガイダンスを参照しながら作り上げた。SRAによる承認が近々見込まれるワクチンも複数存在する。しかし、フィリピンは肝心のワクチンを手に入れることができるだろうか?先進国の動きは速い。欧米のワクチンメーカーと先進諸国との間では、60億回分のワクチンを予約する契約が既に締結されているようだ。カナダなどは国民一人当たり6回分のワクチンをすでに確保している(次ページ図参照)。他方、フィリピンを含む中所得国・低所得国にとって頼みの綱であるCOVAXは、「所得如何に関わらず、全世界の国々が人口の20%分のワクチンへのアクセスを確保できるよう、2021年までに20億回分のワクチンを共同購入する契約を結ぶ」ことを目標に活動を続けているが、年末までに調達する契約が成立しているのは13億回分に止まる*12。そして、ワクチンの現物がいつ届くかは不明だ。こうした中、当時、フィリピン政府が調達契約締結に向けて交渉をしていた製薬会社からは、「契約締結後10日以内に調達総額の50%を前払い金として支払うよう」要請が来ていた。これが満たされなければ契約は失効、供給量の限られるワクチンを各国が我先にアジア太平洋ワクチンアクセスファシリティ(APVAX)の概要二つの柱(1)RRC:Rapid Response Component途上国政府がワクチンを迅速に調達するための財政支援(2)PIC:Project Investment Componentワクチンの輸送・管理・普及に必要なインフラ、システム構築のための投資等を支援ワクチンの適格基準(2020年12月11日時点)(1)COVAXを通じて調達するために選ばれたワクチン*11(2)WHOの事前認証(Prequalication)を受けたワクチン(3)製造された国において厳格な規制当局により認可されているワクチンAPVAXへのアクセス条件下記を満たせば、全てのADB加盟途上国が利用可能(1)ADBが承認したニーズ・アセスメントとワクチン分配計画の作成(2)WHO、UNICEF、GAVI、COVAX、世界銀行グループなど開発パートナーとの効果的な協働メカニズムの存在国別のアクセス上限(1)以下の想定で国ごとのニーズ総額を算定A:一回当たりのワクチン額は$10.55(COVAXの「購入確約オプション」と同額)と見積もる。B:「全人口の7割が接種を済ませれば集団免疫が獲得可能」との想定の下、ADBの支援はその2割(全人口の14%、低所得国・脆弱国(Group A, Group B国)は3割(全人口の21%))をカバーする。C:ワクチンの輸入・配送等に係る費用はワクチン購入総額の30%(脆弱国・紛争後国については50%)と見積もる。(2)上記を通じて算定した「国ごとのニーズ」と、「ADBの融資条件ごとに設定した上限額」のいずれか小さいほうを、「国別のアクセス上限」として設定・グラント(アジア開発基金):1億ドル・譲許的(低利・長期)融資:5億ドル・準市場条件での融資:15億ドル有効期間理事会承認日から36カ月(理事会の承認が得られれば24カ月追加で延長可) ファイナンス 2021 Jul.25パンデミック下の途上国支援SPOT

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