ファイナンス 2021年7月号 No.668
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て、ワクチンは、少なくとも短期的な処方箋にはなり得ないように思われた。しかし、2020年9月末に、ADB総裁室にてワクチン支援に向けた最初の議論が行われた際、ADB保健チームが用意した下記の図は、これまでの常識を覆す圧倒的なスピードでCOVID19ワクチンの開発が進捗していることを示していた。治験開始から一年足らずで承認取得が視野に入るという、前代未聞のスピードでCOVID19ワクチンの開発が進んだ理由としては、(1)SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)等、COVID19に関連するウィルスに着目した10年以上にわたる先行関連研究の存在、(2)2012年に設立されたICMRA(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities:薬事規制当局国際連携組織*3)を通じたCOVID19ワクチンの治験結果の情報交換、(3)2017年に発足したCEPI (Coalition of Epidemic Preparedness and Innovation:感染症流行対策イノベーション連合*4)による資金支援や技術協力、(4)各国政府による財政支援の巨額投入、(5)*3) ICMRA:日本を含む世界29の国・地域の規制当局からなる長官レベルの国際会合。WHOのオブザーバー参加を得つつ、安全・有効・高品質な医療・保健製品へのアクセスの促進、医薬品規制当局に対する国際的な戦略的視点の提供、共通の規制問題・課題に対する知見の共有を促進。*4) CEPI:世界規模でワクチン開発を促進するために、2017年1月のダボス会議で発足した官民連携パートナーシップ。日本、ノルウェー、ドイツ、英国、オーストラリア、カナダ、ベルギーに加え、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラストが拠出し、平時には需要の少ない、エボラ出血熱のような感染症に対するワクチンの開発を促進。流行が生じる可能性が高い低中所得国も入手できる価格でのワクチン供給を目的としている。製薬会社による臨床試験の各プロセスの並行実施、(6)臨床試験段階でCOVID19陽性者が市中に多数存在していたためワクチン効果の測定が容易であったこと等が、指摘されている。(2)立ち上がるグローバル・パートナーシップCOVID19ワクチンのスピーディな開発は重要だが最初の一歩に過ぎない。パンデミックに打ち勝つには、安全かつ効果のあるワクチンを、世界全体に公平、迅速に、そして継続的に行き渡らせなければならない。これを実現するには、購買力や製薬会社との交渉力に乏しく、ワクチンの安全性・有効性を審査する規制・組織が脆弱で、さらに集団免疫を獲得できるレベルにまで予防接種を適切に実施できる体制が未整備な途上国に、必要な支援を最適なタイミングで届ける必要がある。先進国の人々がワクチン接種を済ませても、途上国の脆弱層や貧困層の間でCOVID19が蔓延し続ければ変異種が容易に発生・拡大し、先進国にもすぐに伝播するだろう。ワクチンはグローバル公共財であり、「すべての人々が安全にならなければ誰も安 ファイナンス 2021 Jul.21パンデミック下の途上国支援SPOT

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