ファイナンス 2021年7月号 No.668
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1はじめに本シリーズでは、2020年初に新型コロナウィルス(COVID19)の蔓延が始まって以降、筆者が、アジア開発銀行(ADB)の総裁首席補佐官として、あるいは、マニラの一市民として直接関わってきた問題と、その解決のために採られてきた様々な取組みを、ミクロとマクロ、双方の視点をもって振り返りながら、パンデミック下の途上国支援について考えていく。最終回となる本稿では、各国がCOVID19の第二波、第三波に苦しめられる一方で、世界的にワクチンの開発、承認、調達、そして接種に係る取組みが本格化し始めた2020年後半から2021年5月末までの期間に焦点を当て、その間、ADBが安全で効果のあるCOVID19ワクチンを、可能な限り迅速且つ公平に人々の手に届けるために、どのような支援を展開てきたかを紹介したい。そのうえで、本シリーズの締めくくりとして、COVID19危機に際し、ADBが刻々と変化する各国の状況、ニーズに応じて、史上最大の規模をもって柔軟かつスピーディな支援を提供できた背景にある5つの要素に光を当てる。*1) 出典:Lancet, October 17, 2020, “Estimating the cost of vaccine development against epidemic infectious diseases:a cost minimization study”*2) 出典:Nature, December 18 2020, The lightning-fast quest for COVID vaccines ̶ and what it means for other diseases2ADBによる90億ドルの新たなワクチン支援枠組み―APVAX:Asia Pacic Vaccine Access Facility-の立上げ(1)加速するワクチン開発COVID19の感染拡大を抑えつつ、経済・社会活動を再開していくための切り札として、2020年初からCOVID19ワクチンの開発が米国、英国、欧州、ロシア、中国の製薬会社を中心に急ピッチで進められている。病原体の発見からワクチンの承認・実用化までは通常10年以上にわたる長い年月と数千億円に上る莫大な費用を要する、それは94%の試作品が失敗に終わるという冒険的試みでもある*1。下記チャート*2が示す通り、麻疹は10年、B型肝炎は15年、ポリオは50年の年月がかかった。世界で毎年およそ70万人の犠牲者が出ているHIV・AIDSや40万以上が亡くなっているマラリアのワクチンは未だ開発されていない。これまで病原体の発見から実用化までの期間が最も短かったのは1960年代の流行性耳下腺炎(おたふく風邪:ムンプス)ワクチンであるが、4年を要した。こうしたことから、パンデミックに打ち勝つ解決策としアジア開発銀行総裁首席補佐官 池田 洋一郎パンデミック下の途上国支援―其四 危機を乗り越えるアジア開発銀行―20 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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