ファイナンス 2021年7月号 No.668
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の取締りが本格的に強化されることとなります*1。3テロ対策における税関の役割税関のテロ対策における役割は、爆発物等のテロ関連物資の密輸を阻止することにより、我が国におけるテロ行為等を未然に防止することにあります。国際的なテロには、一般的にいくつかの類型があり、テロ組織メンバーによる組織型のものがある一方、テロ組織メンバーではない一匹狼によるローンウルフ型と呼ばれるものもあります。また、国内で生まれ育った者が国外の過激思想等に感化されテロを起こす、いわゆるホームグロウン型があるといわれています。米国同時多発テロ以降、世界で問題となってきたイスラム系テロリストの地域的な特徴を見ると、ISILやアルカイダの活動地域である中東・北アフリカ等では、組織型のテロが発生することが多い一方で、欧米諸国では、ローンウルフ型が多く、その中でも欧米在住のイスラム系住民によるホームグロウン型のテロ事件も多く発生しています。しかし、ヨーロッパとは異なり、日本におけるイスラム教徒は、日本での生活に満足していたり、地域住民とも良好な関係を築いていることから、日本ではいわゆるイスラム系のホームグロウン型テロは起きにくいとされており、実際にこれまで発生していません。このため、外国のテロ組織メンバー及びテロを起こすためのテロ関連物資等が国内へ流入することを防ぐことは、我が国のテロ対策として極めて効果的な対策であり、その観点からテロ関連物資の密輸を防ぐための税関における水際対策は、政府全体のテロ対策の中でも重要な取組みであるといえます。4テロ対策の3つの柱「テロとの戦い」と呼ばれる時代に突入して以降、財務省・税関では、必要なテロ対策を行ってまいりました。具体的には、必要な人員の確保等による検査体制の強化に加え、「情報」、「機器」、「連携」という3本柱について、必要な制度改正等も積極的に行いながら、様々な対策を講じてまいりました。以下、それぞ*1) 日本へ輸入することが禁じられているものは、当時は関税定率法に「輸入禁制品」として規定されていた。現在は、関税法第69条の11第1項において覚醒剤や麻薬などの不正薬物や、銃砲、爆発物等のテロ関連物資が「輸入してはならない貨物」として規定されている。*2) PNR(Passenger Name Record)とは、航空会社が保有する旅客の予約情報のことで、氏名や国籍、生年月日に加え、予約年月日、旅行日程など計35の報告項目がある。*3) 我が国に入港しようとする船舶に積み込まれる海上コンテナー貨物に係る積荷情報について、原則として当該コンテナー貨物の船積港を当該船舶が出港する24時間前に、詳細な情報を、電子的に報告することを義務付ける制度。*4) 我が国の税関空港に入港しようとする外国貿易機に積載された貨物に係る積荷情報について、原則として税関空港に入港する3時間前までに当該税関空港の所在地を管轄する税関に電子的に報告することを義務付ける制度。れの取組みについて、具体的な内容を簡単にご紹介したいと思います。(1)事前情報の収集・分析の強化まず1つ目は、事前情報の収集・分析の強化です。そもそも税関の業務量はグローバル化・ボーダーレス化により令和元年の輸入貨物の許可件数は4,640万件、また訪日外国人旅行者数は3,188万人となっており、それぞれ平成元年に比べて9.5倍、4.1倍と大きく増大しています。こうした膨大な輸出入貨物や旅客を効率的かつ効果的に取り締まるためには、貨物や旅行者が日本に到着する前に必要な情報を事前に取得し、スクリーニングをするといった取締手法をとることが極めて重要です。財務省・税関においては、これまで、関係する各業界の協力のもと、事前情報入手のための法整備を行うことにより、事前情報を入手するための体制を整えてまいりました。事前情報を入手する対象は、大きく分けて旅客と貨物に分かれますが、海外から日本に入出国する旅客及び乗組員については、氏名、国籍、旅券番号、出発地等の事前旅客情報(API:Advanced Passenger Information)及び、より詳細な予約情報を含む乗客予約記録(PNR:Passenger Name Record)*2を航空会社から電子的に提供して頂いております。入手した情報については、関係機関からの情報に合致した旅客や、外国人戦闘員として注意すべき国籍等に係る旅客を24時間体制で分析・選定し、不審者のスクリーニングを行った上で、現場での厳格な検査の実施に役立てています。輸入される貨物についても、我が国に入港しようとする船舶や航空機に積み込まれる海上コンテナー貨物や航空貨物に係る情報については、出港前報告制度*3、事前報告制度*4等の制度整備により、船会社や航空会社等から税関へ報告して頂いており、こういった事前情報をテロ関連物資の密輸取締りに活用しています。(2)取締・検査機器の活用2つ目の柱は、取締・検査機器の活用です。 ファイナンス 2021 Jul.11税関におけるオリパラに向けたテロ対策 SPOT

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