ファイナンス 2021年7月号 No.668
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1はじめに近年、経済・社会のグローバル化・ボーダレス化の進展を背景として、国際的な物流や人的交流が急激に拡大してきた中で、国民の安全・安心を脅かす覚醒剤や麻薬等の不正薬物、銃砲、テロ関連物資等の密輸の危険性が高まっています。財務省・税関では、「安全・安心な社会の実現」を使命の一つに掲げ、こうした不正薬物等の国内への流入を阻止することを最重要課題の一つとして位置づけ、水際での取締りを実施しています。水際での取締りにおいては、国際的なイベント開催時は、テロ対策を強化して取締りを実施する必要があります。特に2019年には日本が初めて議長国を務めたG20大阪サミットに始まり、アフリカ開発会議(TICAD)やラグビーワールドカップの開催、また天皇陛下の御即位に伴う即位礼正殿の儀も開催される等、各国の要人等が集まる国際的イベントが連続して開催されました。そしていよいよ本年、東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。今回のオリンピック・パラリンピックは、新型コロナウィルス感染症の世界的な感染拡大を受け、海外観客の受入れは中止されることとなりましたが、それでもなお、こうした大規模な国際イベントの開催は、世界中の注目を集めること等から、テロ組織にとって自らの組織の勢力誇示する格好の標的となる可能性があります。そのため財務省・税関では近年、こういった一連の重要行事、特に本年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、テロ対策の一層の強化を図ってまいりました。本稿では、こうした東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けての、知られざる税関のテロ対策の取組みについてご紹介したいと思います。2世界のテロ動向と税関の役割税関の取組みそのものをご紹介する前に、まず世界におけるテロ動向と、その変化を受けた税関の対応を簡単にご説明したいと思います。テロの歴史を振り返ると、その形態は時代によって変化しています。東西冷戦下においては、共産主義イデオロギーを標榜するテロ組織が、反資本主義、反帝国主義などを掲げて、西側権益を対象に爆弾テロやハイジャック等のテロ活動を行っており、日本においても1970年代には日本赤軍によるテロ事件もありました。こういったものが一般的にテロとされていましたが、東西冷戦構造が崩壊してからは、イデオロギー対立の影に隠れていた宗教や民族分離独立を掲げるテロリズムが台頭し、アルカイダを中心とするイスラム系テロリストによるテロ事件が発生するようになりました。1990年代には、多くのイスラム系テロリストによるテロ事件が世界中で発生し、日本人の死傷者も出ましたが、日本では欧米諸国に比してイスラム系テロリストによるテロの問題がそれほど深刻化していませんでした。そのような中、日本にとっても局面が大きく変わったのは2001年9月の米国同時多発テロが発生して以降です。アメリカが「テロとの戦い」を掲げ、アフガニスタン戦争、そしてイラク戦争へと突入していく中、世界各地でテロ組織による自爆テロ等が相次ぎ、その脅威・リスクが日本にとっても例外ではなくなったことを背景に、日本政府としてもそれまで以上にテロ対策に積極的に取組む必要が生じました。このような中、財務省・税関においては、米国での同時多発テロ発生以降、我が国におけるテロ行為等を未然に防止するため、種々の施策を講じてまいりました。2005年には、テロ対策に万全を期す観点から、関税法に規定されている輸入禁制品に、爆発物等のテロ関連物資が追加され、銃砲、覚醒剤・麻薬等のいわゆる社会悪物品に加え、爆発物等についても、水際で前関税局監視課課長補佐 高橋 実枝税関におけるオリパラに向けた テロ対策10 ファイナンス 2021 Jul.SPOT

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