ファイナンス 2021年6月号 No.667
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移民労働者の受け入れ施設の建設・提供:モルディブ経済は、バングラデシュ等他の南アジアの国からの移民労働者によって支えられていたが、COVID-19のパンデミックに伴うロックダウンにより、それらの移民労働者が特にマレ首都圏において厳しい環境に置かれていた。*17その状況に対応するために、経済開発省とフルマレ開発公社(HDC:Hulhumale' Development Corporation)が実施省庁・機関となり、移民労働者の受け入れ施設を建設・提供することになった。同施策は、二つの活動で構成されている。一つ目は国営企業や民間企業がフルマレ島に既に建設済みの居住用建物を改修し、一時的な仮設の受け入れ施設して用いるというものである。二つ目は、モルディブ政府がフルマレ島とグリファル島(Gulhifalhu)に恒久的な労働者居住区域(labor village)を新規に建設し、そこを移民労働者の受け入れ施設としても活用するというものであった。恒久的な労働者居住区域の建設については、政府内で施工業者の調達作業が必要となるため、2020年終盤の建設の開始が目指された。2020年12月までの時点で、フルマレ島の仮設施設には8,000人ほどの移民労働者が受け入れられていた。また、入所した移民労働者が公式に登録されていなかった場合は、公式な登録作業を経て母国に帰されていった。他方、本ミッションにおいて、過去半年の間、同施設には男性の移民労働者しか支援を求めてきていなかったことも判明した。その状況に対する実施省庁・機関の見解は、男性の移民労働者の多くが建設業に従事しているの*17) 移民労働者の多くは主に建設現場等で働いていたが、ロックダウンによりその稼得手段を失い、また国境も封鎖されていることから帰国もできず、マレに放置されることとなった。彼らは一般に限られたスペースかつ劣悪な環境に集団で生活することを余儀なくされていたことから、そうした集団生活に由来するクラスター感染が頻繁に発生していた。に対して、女性の移民労働者は主にリゾートや家事手伝い等のサービス産業に従事しており、ロックダウン下においても、居住面についてはある程度雇用主からのサポートがあったのではないか、ということであった。確かに、男女間でロックダウン下で置かれた状況に違いがあった可能性はあるが、受け入れ施設の運営やデザイン・設計がジェンダーに十分に配慮したものとして女性の移民労働者からポジティブに受け止められていたか、そもそも施設の存在が女性の移民労働者から十分に認識されていたのか、といった点も懸念された。これらの点について、モルディブ政府に対して、要因をよく検証し必要に応じて改善策を実行するよう要請するとともに、ADBとしても、本ミッション後に、国際移住機関(IOM:International Organization for Migration)と連携しながら、要因の分析と善後策を講じることとした。また、ADBからモルディブ政府に対して、移民労働者の現状を詳細なデータに基づいて適時に把握することの重要性をあらためて強調した。上記のとおり、CPROに留まらず、例えば、将来的にADBがモルディブに対してAPVAXを活用したワクチン供給に関する支援を提供するためには、モルディブ国民だけでなく移民労働者にも適切にワクチンが行き渡ることを確認図4 フルマレ島の移民労働者受け入れ施設78 ファイナンス 2021 Jun.連載海外 ウォッチャー

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