ファイナンス 2021年6月号 No.667
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者の受け入れ施設を建設・提供したものの、蓋を開けてみると、実際には、その施設を男性移民労働者しか利用していなかったという事実が判明した。そのような施策については、要因の検証と改善策の実行をモルディブ政府に対して要請した。また、受益者の属性に基づいた詳細なデータの収集・分析が不十分という課題が浮き彫りになった。この点については、引き続き、TAで雇用・派遣しているモニタリング・評価と社会開発・ジェンダーの専門家たちの助言・能力開発を受けながら、実施省庁・機関で検討を続けてもらうこととなった。以下では、いくつかの施策について、本ミッションにおいて把握された象徴的な内容について、簡単に紹介したいと思う。COVID-19 Income Support Allowance Program(休業者・失業者に対する所得補償プログラム):休業者・失業者に対する所得補償プログラムは、パンデミックによって、その就業状況に対して悪影響が生じた者を対象として所得補償を支給する施策であり、経済開発省、国家社会的保護機関(NSPA:National Social Protection Agency)が実施省庁・機関である。具体的には、パンデミック前に比べて給与水準が著しく下がった就業者、パンデミックにより無給の休職状況を余儀なくされた者、失業状態に置かれた者、自営業者・フリーランス等がその支給対象となる。実施時期について、当初、ロックダウン期間の2020年4月から6月までの予定であったが、経済状況が7月以降も改善しなかったことから、結果として12月まで継続されることとなった。所得補償の支給にあたっては、受給申請者から提出された申請書を基に、経済開発省の担当チームが受給資格の審査を行う。プログラム開始当初、申請手続きは紙ベースで行われていた。しかし、マレ首都圏は6月までロックダウンが敷かれていたため、経済開発省の職員も在宅勤務を余儀なくされ、紙ベースでの審査作業は困難であった。また、申請プロセスにおいては、必要書類や必要情報の漏れが散見され、経済開発省から申請者に対して申請書の差し戻しが生じることが頻繁にあった。ロックダウン下においては、省庁建物のカウンター越しに相談に乗ることも不可能であったため、同プログラムの申請プロセスはロックダウンにより大きく遅滞した。このような事態の下、経済開発省は申請プロセスをオンラインに移行した。また、SMS等を活用して職員が積極的に申請者に対してアプローチすることにより申請プロセスの効率化を図っていた。また、受給資格の審査においては、申請者の給与への影響の程度や、経済開発省以外の政府機関が提供する譲許的ローンスキームに対して申請が重複していないか等について、細かい確認が必要となる。当初、それらの確認作業は、内国歳入庁(MIRA:Maldives Inland Revenue Authority)、年金機構、譲許的ローンを提供する金融機関等に対して、経済開発省から、申請ごとに都度、電話やメールを通じて行われていた。しかし、審査作業の効率化のため、経済開発省はデータベースをそれぞれの機関のデータベースと統合することによって、申請者の資格要件を効率的に確認できるように改善していた。さらに、同プログラムについては、マレ首都圏ではある程度の認知度があったものの、島嶼部においてはまだ認知度が十分ではなかったことから、経済開発省は島嶼部の市議会(city council)や女性団体(women association)とパートナーシップを結び、島嶼部に対しても積極的にその支援の範囲を広げていった。これらの現場の努力の経緯については、必ずしも数字を見ただけでは把握することができず、ヒアリングを通じて、はじめて把握することができた。図3 所得補償プログラムの申請用ポータルサイト ファイナンス 2021 Jun.77海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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