ファイナンス 2021年6月号 No.667
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いるのかどうかが見えにくく、もどかしさを感じるようになった。例えば、休業者・失業者に対する所得補償プログラムについて、8月の申請者数の減少が見られた。しかし、これが7月にロックダウンが解除されたことによって就業環境が改善したというプラスのサインなのか、単に集計上の技術的な要因(集計期間がたまたま短かったのか)によるのかがはっきりしなかった。また、ADBと政府の間で、全ての申請について申請書の提出から給付までのプロセスを3週間以内に行うことで合意していたが、8月のデータによれば、申請全体の7割程について申請書の提出から給付までに3週間以上の期間を要していた。この遅延についても、実施省庁・機関の審査プロセスの問題(例えば、審査フローの非効率性、人員の不足)なのか、申請者側の要因(例えば、申請書類の不備等)なのかも数字からだけでは見えてこなかった。この時期、モルディブ政府は国境の再開から始まった第二波への対応にリソースを割かれており、ADB、専門家と政策パッケージの実施省庁・機関の担当者の間のオンライン会議についても設定しづらい状況にあり、数字の裏付けとなる現場の情報が得づらいという状況に悶々とすることとなった。11月になると、一回目の四半期進捗報告書が提出された。この時期には、モルディブ人専門家たちの協力もあり、概ねデータが揃い、立案・検証フレームワークの達成目標指標について大体の動向が見えてくることとなった。例えば、政策パッケージのうち、保健医療対策パッケージについては、検査キャパシティの増大や隔離病床の確保等、概ね早い段階で目標が達成されていたものの、そのうちジェンダーに関する指標については、提出されていたデータからだけでは合意内容が適切に遵守されているのか(例えば、本当に確保された隔離病床について男女で病棟が分けられて運用されているか)判断ができなかった。また、社会的保護パッケージ、経済対策パッケージについては、指標の中に遅れの見られるもの、そもそもデータが提出されておらず判断が難しいものなどが散見された。ADBは、2020年12月9日に、DMCに対するワクチン供給支援のために、アジア太平洋ワクチンアクセスファシリティ(APVAX:Asia Pacific Vaccine Access Facility)という枠組みを打ち出しており、モルディブもその支援の対象となることが想定された。しかし、同枠組みの支援をモルディブが利用できるかどうかの検討にあたっては、モルディブ政府がCPROを通じて、ジェンダーの観点も踏まえながら、移民労働者といった社会的弱者に対して適切に支援を行うことができたかどうかという点が重要な判断材料となる。APVAXに限らず、CPROの適切な実施は、将来のADB支援の妥当性を判断する上で非常に重要であり、CPROの達成目標のうち進捗が遅れているものについては、今後どのように改善していくかについて、早い段階で政府と(オンラインながらも)膝を突き合わせて議論し、方向性をまとめる必要があった。(3)合同レビューミッションの実施(1月)2021年1月25日から28日にかけて、ADBはJICAと合同で、CPROの進捗に関するレビューミッションをオンラインで実施した。JICAからは南アジア部とモルディブ支所が合同ミッションに参加した。同ミッションは、4日間で財務省、経済開発省、保健省、ジェンダー省をはじめとする計9つの実施省庁・機関との間で、政策パッケージに含まれている施策について個別に会議を行い、各施策の進捗についてインタビューを通じて指標データに表れてこない定性的な現場レベルの情報を収集した上で、進捗が遅れている施策について今後の具体的な改善策を協議・合意するというものであった。インタビューを重ねるにつれて、過去半年にわたって、実施省庁・機関が、現場レベルで創意工夫を重ねることで、CPROの組成段階では想定できていなかった、ロックダウンによる影響、国境再開後の第二波の到来やモルディブ政府の政策方針の変更といった不測の事態を乗り越えて、政策パッケージを効果的に実行してきたということがわかってきた(その具体例については後段で紹介したい)。そのような数字に表れてこない努力の内容について、CPROの執行・モニタリング期間が完了した後の評価作業において適切に評価されるべく、ADBとJICAのミッション団は、モルディブ政府に対して、今後の四半期進捗報告書の中に、そのような背景情報についても指標の数字を補完する記述(narrative)の形で入れ込んでいくことを強く促した。他方で、ジェンダーに関する目標が達成できていない施策についても実情を確認した。例えば、移民労働76 ファイナンス 2021 Jun.連載海外 ウォッチャー

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