ファイナンス 2021年6月号 No.667
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また、新政府は、新貨条例制定後、大蔵省兌換証券、新紙幣等の政府紙幣を発行したのに続き、1872年の国立銀行条例制定により、1873年から国立銀行紙幣が発行された。当初、国立銀行紙幣は、米国の印刷会社に製造を委託されていたが、海外での製造に伴う経費負担や偽造防止の問題から、国内製造を求める声が高まり、紙幣寮(その後、紙幣局、印刷局等を経て、現・国立印刷局)において、最先端の紙幣製造技術をドイツより輸入し、1877年、国立銀行紙幣(新券)が製造・発行された。その後、国内の紙幣発行を一元化し、近代的な通貨・金融制度を確立するため、1882年に日本銀行が設立され、1884年より、印刷局において日本銀行券の製造を開始し、翌1885年からその発行が開始された*5。このように、新政府は、最先端のイノベーションを積極的に取り込みながら、近代的な通貨制度の構築を通じた国力の増強、国際的な競争力の確保を図った。なお、日本銀行券は、当初、銀貨と交換できる兌換銀券と*5)大蔵省印刷局『大蔵省印刷局百年史』第1巻・第2巻(大蔵省印刷局、1971〜72年)して発行されたが、欧米諸国に倣い、1897年の貨幣法制定により金本位制が確立され、日本銀行券は金貨と交換できる兌換券となった。その後、世界恐慌の影響を受けて、1931年に金貨兌換を停止し、実質的に管理通貨制度に移行したが、それ以来、戦時中の例外を除き、今日まで、本位通貨としての日本銀行券と補助通貨としての貨幣による通貨制度が維持されてきた。この間、造幣局・国立印刷局(それぞれの前身の機関を含む)は製造技術向上に努め、各時代における最高水準の偽造防止技術を取り入れてきたが、そうした努力の結果、現在、我が国における偽造通貨の発見割合は諸外国と比して低い水準となっていることは注目に値する(下記グラフ参照)。本年は、1871年に新貨条例が制定され、近代通貨制度が誕生してから150年を迎える節目の年であるが、我が国の通貨の造幣寮創業当時の圧印機(仏トネリ社製)(提供:造幣局)旧20円貨幣(提供:造幣局)流通枚数に対する偽造発生割合(日本の偽造発生割合を1とした場合)226倍105倍45倍1倍イギリスユーロカナダ日本(倍)050100150200250銀行券/2020年402倍1倍ユーロ(2ユーロ貨)日本(500円貨)(倍)3004005000100200貨幣/2019年出典:各国中央銀行HP等より筆者作成国立銀行紙幣(新券)(提供:国立印刷局お札と切手の博物館)日本銀行兌換銀券(提供:国立印刷局お札と切手の博物館)4 ファイナンス 2021 Jun.

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