ファイナンス 2021年6月号 No.667
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の活動を開始するのは大体8月末となった。また、専門家たちは外国人とモルディブ人の混成であったので、外国人専門家にリモートでTAの支援の方針を検討してもらい、モルディブ人専門家に現地での実際の調整を担ってもらう形で協働していくこととなった。また、専門家の採用活動と並行して、ADBとしてどのようにCPROの進捗管理をしていくかについての検討が行われた。モルディブに対するCPROの融資契約書の下で、モルディブ政府はADBに対して、四半期進捗報告書(quarterly progress report)を提出することが義務付けられていた。一度目の四半期進捗報告書の提出のタイミングは、プロジェクト開始から4か月後の11月中旬であったため*15、プロジェクト開始直後の7月から10月の期間について、適時に政策パッケージの状況が把握できる進捗管理の方法を考える必要があった。CPROの進捗については、ADB経営陣も高い関心を示していたため、2週間に一度の頻度で、モルディブ政府から立案・検証フレームワークの達成目標指標(5月号の表2を参照のこと)のアップデートを受けつつ、モルディブ人専門家の手も借りながら状況の把握に努めることとなった。なお、この時期になると、モルディブ国内での新規感染者数の抑え込みを背景に、2020年3月から課されていたロックダウンは徐々に緩和され、7月1日には政府機関や学校が再開することとなった。また、7月15日には国境を再開し、まだ少ないながらも、7月末までに1,752人の海外からの観光客を受け入れ、観光・*15) 融資契約書によれば、一度目の四半期進捗報告書の提出期限は、融資契約書の署名から次の四半期末の45日後となっており、モルディブに対するCPROの場合、2020年6月28日に署名されたことから、9月30日の45日後である11月14日が報告書の提出期限となっていた。*16) ニュースリリース:モルディブ向け円借款貸付契約の調印:財政支援を通じ、政府による新型コロナウイルス感染症危機対応に貢献 https://www.jica.go.jp/press/2020/20200930_31.html旅行業の回復に向けて舵を切ることとなった。他方、社会的隔離措置の緩和と経済活動の再開に伴い、8、9月にかけて第二波が到来したため、政策パッケージの一部の施策についてその影響を受けることとなった。また、この時期の大きな進展として、2020年9月30日に、国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)がモルディブに対して借款を提供することが発表された。*16同借款は、ADBのCPROと同様に、モルディブ政府に対する財政支援を通じて、政府のパンデミック対応に貢献することを目的としたものであった。発表に先立ち、ADBとJICAの間で6月頃より水面下で協議が行われ、執行・モニタリングの有効性、効率性の観点から、JICAは支援対象となる政府の政策パッケージの内容をADBと同一のものとすることで立案・検証フレームワークを組織間で共有し、協調融資者(cofinancier)として共同で執行・モニタリングを行っていくこととなった。(2)モニタリングの難航(10-12月)9月に入り、モルディブ人専門家たちによる現地からの報告も受けつつ、2週間に一度の頻度で行われる政府による進捗報告を組み合わせながら、フィリピンにあるADB本部からリモートで、CPROの執行・モニタリングを進めていくこととなった。しかし、実際に執行・モニタリングを始めてみると、リモートで進捗報告として上がってくる数字を検証するだけでは、それぞれの施策を通じた支援が実際に必要な人に届いて図2 モルディブの新規感染者の推移2021年2020年ロックダウン期間海外観光客の受け入れ開始0300250200150100503月4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月(人)(出所)モルディブ保健省新規感染者数後方7日移動平均 ファイナンス 2021 Jun.75海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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