ファイナンス 2021年6月号 No.667
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表1 融資手法ごとの執行・モニタリングの違いプロジェクトローンプログラムローン(PBL/G)CPRO進捗管理方法立案・検証フレームワーク(DMF)の達成目標指標の達成状況、契約金額と払い出し金額構造改革プログラムに含まれたコンディショナリティ(政策措置)の達成状況立案・検証フレームワーク(DMF)の達成目標指標の達成状況払い出しルール政府と受注者の間で合意されたマイルストーンが達成したことのADBによる確認合意された構造改革プログラムの達成(通常は複数トランシェで構成)融資契約書署名の直後調達方法・セーフガード調達行為、土木工事についてADBの調達ガイドライン、セーフガード政策の対象となる通常、調達行為、土木工事を伴わないため、ADBの調達ガイドライン・セーフガード政策の対象とならない支援対象となる政策パッケージのうち、調達行為、土木工事を伴う施策に係る支出については、ADBの調達ガイドライン・セーフガード政策の対象となるプロジェクト/プログラム実施期間2-5年(ただしプロジェクトの性質によってより長い場合もある)3年以下が多い1年(注)プロジェクト/プログラム実施期間は、ローン承認後からADBによるモニタリング終了までの期間を指す。(出所)筆者作成 4 モルディブに対するCPROの 執行・モニタリングについてここからは、モルディブに対するCPROについて、その執行・モニタリングがどのように行われていったか、筆者の経験に基づいてまとめていきたい。ファイナンス5月号で取り上げたように、2020年6月25日にモルディブに対するCPROの稟議書がADBの理事会によって承認され、6月28日にはADBとモルディブ政府の間で融資契約書が署名された。それを踏まえ、7月2日には支援金額の払い出しが行われた。(1)執行・モニタリングの開始(7-9月)CPROは、上記の3(3)でも述べたように、事前に資金を供与して、事後的に政策パッケージの進捗をモニタリングしていくという仕組みであるため、相手国政府が事前のコミットメントを反故にしないよう、適時に進捗を確認し必要なサポートを行う必要性が通常のプロジェクトローンやプログラムローンに比べて大きい。さらに、CPROの支援対象は、規模が大きく複雑なパンデミック対策の政策パッケージとなる。今回のように、*14) プログラムローンは、基本的に土木工事を伴うような個別のプロジェクトを対象としないため、通常は環境セーフガードについてC(影響度少)に分類され、環境アセスメントは必要とされない。しかし、モルディブに対するCPROの場合、その支援対象となる政策パッケージの内容に移民労働者の受け入れ施設の建設・提供が含まれており、同施設の建設のための土木工事を伴ったことから、融資の組成にあたって、環境セーフガードについてB(影響度中)と分類され、対象工事について適切に初期環境評価(IEE:Initial Environmental Examination)を行うことが融資の条件の一つとしてモルディブ政府に対して義務付けられた。政策パッケージに含まれる計9つの実施省庁・機関にまたがる10以上の施策の進捗を取りまとめることは、ADBの直接のカウンターパートであるモルディブ財務省にとっても経験のないことであり、CPROの執行にあたって、効率的なモニタリングの仕組みを考える必要があった。また、モニタリングに際しては、政策パッケージの支援が計画通りに受益者に行き届いているかを、モルディブ財務省とADBの双方で適時に把握することが望ましい。そのために、性別、年齢、社会ステータス(寡婦、障害者、移民労働者といった属性)、居住地域(首都圏か島嶼部か)等の受益者の属性に係る詳細なデータの収集・分析を行うことが重要となる。しかし、実施省庁・機関からはそのようなデータ収集・分析が困難である旨の懸念が示されていた。さらに、政策パッケージの一部施策は、国の基準を超えて、ADBの求める環境セーフガード対策を行う必要があったが、実施省庁・機関には専門知識・経験を持った人材が不足していた。*14併せて、CPROの条件として、借入国財政に対して短期的な流動性を供給しつつ、中期的な財政の健全性、債務の持続可能性を確保する必要があり、パンデミック後にプログラムローン(PBL/G)の提供を通じて財政・税制改革を支援することを見据えて、構造改革プログラムの対象となる重点分野を洗い出す必要があった。それらの課題に対処するために、はじめに着手したのは、政策パッケージ実施にあたって、実施省庁・機関に対して政策アドバイスを行い、その人材不足を補う専門家の採用活動である。具体的には、(1)モニタリング・評価(monitoring and evaluation)、(2)社会開発・ジェンダー(social development and gender)、(3)環境セーフガード(environmental safeguard)、(4)公共財政管理(public finance management)の分野について、技術協力(TA)を通じて計7名の専門家を雇用した。ADBが専門家を雇用する場合、応募者の評価や内部の承認プロセス等を含めて少なくとも2ヶ月はかかる。採用プロセスは7月初めから開始したため、専門家が実際に雇用され、そ74 ファイナンス 2021 Jun.連載海外 ウォッチャー

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