ファイナンス 2021年6月号 No.667
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革・近代化を目的としたPBLを提供していた。*12当該PBLについて、融資組成の段階で4つの改革分野について計20の政策措置が合意されており、それぞれ10の政策措置が達成された段階で支援金額のうち1回目の払い出し、2回目の払い出しがそれぞれ行われるという形になっていた(ADBではこの分けられた支援金額の払い出しのことをトランシェ(tranche)と呼んでいる)。プログラムローンは複数回のトランシェで構成されていることが多く、借入国政府の立場からすると、ADBとの合意内容に基づいて改革分野の政策措置を期限通りに達成しなければ、ADBからの支援金額の払い出しを受けることができないことから、政策措置の早期実施を通じて構造改革プログラムを前に進めるインセンティブが生まれ、借入国政府内で内部リソースを振り分けたり関係省庁間での調整を進めることが促される。また、ネパール税関に対するPBLの場合、融資契約書に署名後、TAを通じて改革分野の専門家を雇用し、ネパール税関に派遣した。ネパール税関は、その専門家の助言を受けながら、各政策措置をより細かく具体的なアクションに分割して、達成までの順序付けをしたワークプランを作成した。ADBは、専門家を通じて、また税関職員との定期的なコミュニケーションを通じて、それらの個別のアクションが順を追って達成されているかを確認していた。また、3か月に一度ほどの頻度で実際に出張ミッションを行い、ネパール財務省、ネパール税関の幹部職員と直接面談を行い、組織のハイレベルからの継続的な構造改革へのコミットメントを引き出すことにより、当初のタイムライン通りに構造改革プログラムが達成されるようガバナンスを効かせていた。(3) CPRO(COVID-19 Pandemic Response Option)それでは、本稿の対象であるCPROの場合、どのような点が、既存のプロジェクトローン、プログラムローンと異なっているのであろうか。まず、緊急財政支援としてのCPROの構造上の特徴がある。ファイ*12) Nepal:South Asia Subregional Economic Cooperation Customs Reform and Modernization for Trade Facilitation Program https://www.adb.org/projects/50254-001/main*13) CPROの詳細な内容については、ADB日本代表部児玉駐日代表の「アジア開発銀行(ADB)の新型コロナウイルス問題への取り組み」を参照いただきたい。 https://www.adb.org/sites/default/les/page/505251/20200520-JOIa.pdfナンス5月号でも取り上げたように、CPROは、景気循環対策支援ファシリティ(CSF:countercyclical support facility)という緊急支援に特化した融資手法に準じて、今般のCOVID-19のパンデミックに対応して新設された時限的オプションである。*13その設計として、財政資金が足りず、パンデミック対策を適切な規模で行うことが困難なDMC各国政府に対して、迅速に流動性を供給できるようになっている。そのため、ADBと借入国政府の間で合意されたパンデミック対策の政策パッケージが迅速に実施できるよう、融資契約書の署名後、すぐに支援金額が全額払い出される。この点、通常のプロジェクトローンが具体的な支出行為に対して、プログラムローンが構造改革プログラムの政策措置の実行に対して、事後的に資金の払い出しを行うこととは大きな違いが見られる。また、進捗管理についても、例えば、プログラムローンのように合意した構造改革プログラムや政策措置の実行が対象となるのではなく、プロジェクトローンのように、合意されたパンデミック対策の政策パッケージの進捗・効果を立案・検証フレームワークを用いてモニタリングするという仕組みになっている。しかし、CPROの場合、上記のとおり、融資契約書の署名後すぐに支援金額が全額払い出されており、また、プロジェクトローンのように、個別の具体的な調達行為に関わるわけではないため、借入国政府に対して、間接的ながらも、強くガバナンスを効かせる必要がある。そこで、ADBと合意されたとおりにCPROが適切に実施されなかった場合には、低い事後評価を受けることにより、将来的にADBから追加的な融資(特にプログラムローン)が受けづらくなるという「将来のペナルティの可能性」を直截に伝えることで、借入国政府が事前のコミットメントを反故にしないよう牽制するという対応がとられた。 ファイナンス 2021 Jun.73海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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