ファイナンス 2021年6月号 No.667
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発について、システムインテグレーターと契約する必要があるが、その調達作業にあたっては、詳細な仕様書の作成が必要となるほか、ADBの調達ガイドラインに則った形で適切に手続きを進めることが求められる。借入国政府にはそのようなスキルや経験を持った職員が必ずしもいるわけではないので、ADBは技術協力(TA:technical assistance)を通じて専門家(consultant)を雇用・派遣し、政府の実施省庁・機関において調達作業が問題なく進むよう支援している。*8プロジェクトの進捗は、案件承認時に借入国政府と合意した「立案・検証フレームワーク(DMF:design and monitoring framework)」の達成目標指標(target indicator)を定期的にフォローアップすることによって管理している。例えば、高速道路の建設プロジェクトにおいて、その効果目標(outcome targets)が「2023年時点で、ある二地点間の交通量を現時点に比べて2倍に増やすこと」であるとする。その効果目標を達成するために、「道路の敷設」や「料金体系・徴収方法の整備」といったいくつかの定量的または定性的な成果物目標(output targets)が設定される。各指標にはそれぞれ「いつまでに何を実施しなければいけないか」を詳細に記載したマイルストーンとタイムラインが設定されている(通常、プロジェクトローンの執行・モニタリング期間は数年に渡る)。その事前に合意されたマイルストーンと実際の進捗を比べることで、プロジェクトが予定通りに進んでいるのか遅れているのかを借入国政府と共通の物差しで判断することができる。また、契約金額(contract award)と払い出しの金額(disbursement)もプロジェクトの進捗を管理する上で重要なツールである。通常、プロジェクトローンにおける契約から払い出しまでの流れとして、(1)借入国政府と受注者の間で作業に関する契約が結ばれた後、(2)その契約がADBのルールに適合していることを確認し、(3)契約の下で作業が進んで政府が受注者に対して支払いをした後、(4)その支*8) 仕様書の作成について、案件承認前に行われ、融資の承認時に既にいくつかの調達パッケージについて契約が済んでいることも多い。*9) Safeguards https://www.adb.org/who-we-are/safeguards/main*10) 2019年のADBの融資金額のうち17%がプログラムローン(PBL/G)に分類されている。プログラムローンの詳細な内容については、ファイナンス平成30年2月号に掲載された星野拓哉氏の「構造改革を支援する―南アジアの資本市場改革プログラムを例に」を参照いただきたい。 https://www.mof.go.jp/public_relations/nance/denshi/201802/html5.html#page=47*11) この合意された支援金額は、構造改革プログラム実施に当たってのコストとは無関係に、借入国政府のマクロの開発金融ギャップ(development nancing needs)との関連で決められており、プロジェクトローンのように資金使途が限定されていない。払い金額をADBが政府に対して払い出す(リファイナンスする)という形になっている(プロジェクトによって、ADBが受注者に直接支払うという場合もある)。契約金額と払い出しの金額は、プロジェクトの進捗の度合いに対して、それぞれ先行指標的、一致指標的な意味合いがある。また、そうした指標を用いたモニタリングを補完する形で、年に数回、プロジェクトの担当者が実際に現地を訪問して、実際の進捗の状況について政府の実施省庁・機関の関係者と会議を行うことによって、現地で生じている課題を把握し、対処することとなっている。また、インフラ整備を対象としたプロジェクトの場合、借入国政府はADBの環境・社会セーフガード政策に則ってプロジェクトを実施しなければならない。例えば、土木工事(civil work)を伴うプロジェクトの場合、工事によって周辺環境に対して影響が生じる可能性がある。また、工事用地に居住していた先住民の非自発的な移住を伴う可能性もある。ADBはこのようなプロジェクトの潜在的な環境・社会に対する影響について厳格なセーフガード政策を定めており、案件組成の過程で厳密な審査を行い、その影響の程度に応じてA(影響度大)からC(影響度少)の三段階に分類している。政府の実施省庁・機関は、プロジェクトの準備・実施の段階で、その分類に応じて、環境アセスメント等適切な対応をとらなければならない。*9(2)プログラムローン(PBL/G)プログラムローン(PBL/G)は、借入国政府とADBの間で構造改革プログラムについて合意し、その合意内容を達成すれば、それをトリガーとして事前に合意された支援金額が払い出されるという融資手法である。*10そのため、PBL/Gの進捗管理は、構造改革プログラムに含まれる各種政策措置(policy actions)が着実に実行されているかどうかにその力点が置かれる。*11例えば、筆者の所属している南アジア局のRegional Cooperation and Operations Coordination Division(SARC)は、ネパール税関に対する組織改72 ファイナンス 2021 Jun.連載海外 ウォッチャー

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