ファイナンス 2021年6月号 No.667
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1 はじめにファイナンス5月号では、モルディブのパンデミック対策を支援するための緊急財政支援融資であるCPRO(COVID-19 Pandemic Response Option)が、アジア開発銀行(ADB:Asian Development Bank)の理事会で承認されるまでの案件組成過程について、まとめさせていただいた。*1融資案件の組成・承認はダイナミックなプロセスであるが、本当に重要なのは、借入国政府が、ADBからの借入資金を用いて、ADBとの間で合意された政策パッケージを確実に実行し、適切な支援を社会的・経済的脆弱層に迅速に届けることができたかどうかである。本稿では、5月号の続編として、ADBの理事会でモルディブに対するCPROが承認された後、実際にどのように執行・モニタリング(implementation and monitoring)が行われてきたかについて、担当者の視点からまとめたいと思う。国際開発金融機関の融資案件において、執行・モニタリングが具体的にどのように行われているのかについての情報は限られていると感じており、本稿を通じて、多少なりとも、実際の様子を読者に伝えることができれば幸いである。通常、ADBが提供しているインフラ整備等向けのプロジェクトローン、構造改革を支援するプログラムローン(PBL/G:policy based loan/grant)においても、執行・モニタリングの段階になると、組成・承*1) ファイナンス令和3年5月号に掲載された拙稿「担当者の視点から見たアジア開発銀行のパンデミックにおける緊急財政支援について」も本稿と併せてご覧いただきたい。*2) 本稿の執筆に当たっては、池田氏、林氏、中根氏、星野氏をはじめ多くのADB関係者にアドバイスをいただいた。特に、星野氏には本稿の構成の検討においても多大なご助力をいただいた。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。認の際には想定していなかったような問題が発生しうる。CPROについては、特に、パンデミックという不確実性の高い状況を背景に、モルディブ政府と案件デザインについて合意した段階では全く想像していなかったような外部環境の変化、それに伴う政策方針の変更、現場での課題の顕在化といった事態が生じ、臨機応変な対応が求められる場面が多々あった。さらに、パンデミック下において、国をまたいだ往来が制限される中、フィリピンにあるADB本部から現地への出張ミッションを行うことができず、またモルディブの特殊事情として、ADBの現地事務所(resident mission)がないため、完全に本部からリモートでその進捗管理を行わなければならないという難しさがあった。その上で、CPROの構造上の特徴を踏まえて、借入国であるモルディブ政府に対して、ガバナンスをいかに効かせて、その進捗を確かなものにしていくか、という点に気を配る必要があった。これらの点についても、具体的な事例も交えながら、本稿の中で触れていきたいと思う。なお、本稿は、当時の業務経験および作業記録を元にして筆者が個人として解釈・構成したものであり、組織の公式な見解を記すものではない。また、本稿に含まれた情報や制度の説明について間違いがあることも十分にありうる。そのような場合、それらは筆者の責に帰するものであることをご承知おきいただきたい。*2海外ウォッチャーアジア開発銀行 南アジア局エコノミスト 鳥羽 建FOREIGNWATCHER担当者の視点から見た アジア開発銀行のパンデミックにおける緊急財政支援について ―執行・モニタリング編―70 ファイナンス 2021 Jun.連載海外 ウォッチャー

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